この間、見解を述べていたのは浅草キッド・水道橋博士やダンカン、ガダルカナル・タカ、井手らっきょなど、80年代バラエティ黄金期を支えた面々。しかし当然、その下にはあまたの俳優・芸人がいる。そんななかでも異彩を放っているのが漫才師、米粒写経・サンキュータツオだ。
「彼は、学者芸人。早稲田大学で文学を学び、大学院の修士、博士課程へ進学して日本語と日本文化を修得。じつに14年も早稲田に通いました。現在41歳ですが、“大学院博士課程芸人”はお笑い業界初といわれています。昨今は、東大生クイズブームなので、サンキューさんに声がかかることも多いようです」(スポーツ新聞・芸能記者)。
コアなお笑いファンのあいだでサンキューはかねてから、崇められていた。俳優としてブレイクしたマキタスポーツ、コメンテーターとして安定の地位を築きつつあるプチ鹿島との3人で、TBS系ラジオ『東京ポッド許可局』のパーソナリティーを務めているからだ。弁が立つオジサン3人の放課後ヒソヒソ話はもともと、自主制作ラジオのポッドキャストではじまった。しかし、現在はTBSラジオの人気コンテンツだ。イベントを開催するとフルハウスとなり、今年は10周年のメモリアルイヤーだ。
国語辞典のコレクターで、仏像マニア。麻雀、落語観賞など、マニアと呼ぶにふさわしい趣味が多く、アニメ・漫画にも造詣が深い。中・高校時代はバスケットボール部とあって、ミニバスケット指導歴もある。芸人ギャラは多くはないが、一橋大学、早稲田大学、成城大学の非常勤講師も務める、日本語学の研究者でもあるため今年、2つ目の“お笑い界初”を成し遂げた。『広辞苑』の執筆者に加わったのだ。
『広辞苑』といえば、1955年に初版が刊行された日本語国語辞典。今年1月12日、第七版がおよそ10年ぶりに発行された。厚さは8cm。重量は3㎏。国内で製本できる最大のページ数といわれている。18年度版では、およそ約1万項目が追加。25万語ほどが収録されている。このテキスト担当として、サンキューに白羽の矢が立ったのだ。
およそ230冊もの国語辞典を所有する超マニアにして、会を主宰するほどのアニメ・漫画好きであるサンキューを、『広辞苑』版元の岩波書店の編集者がスカウト。水面下で、約3年前から編集局員として収録言語の選別、プレゼン、執筆にかかわっていた。執筆者は、およそ200人。並み居る専門作家のなかでサンキューは、「サブカルチャー」の肩書きだ。
本年度版では、得意とするボーイズラブや少年漫画、少女マンガや『ドラえもん』、動画サイト、ボカロなどの新語・人名が採用された。対して、ツンデレ、声優を意味するCV(キャラクラーボイス)は不採用となった。もちろん、彼の名はしっかりあとがきに掲載されている。お笑い業界が誇れる1行が、『広辞苑』の最新版には載っているのだ。