そして、火のまわりが早かったことと乗員の怠慢とは無関係ではない、むしろ大いに関係していると考えらる人々もいた。つまり、モロ・キャッスルは乗員に放火されたのかもしれないというのだ。なぜなら、モロ・キャッスルの船主は収益確保するため過密な運行スケジュールを要求し、船員にとっては非常にブラックな職場となっていたのである。また、以前の航海では濡れたデッキで乗客が転倒、負傷し、船会社へ損害賠償を求めるという具合で、運行状況は非常にずさんだった。
損害賠償騒ぎなどもあり、船長もストレスから精神を弱らせていて、デッキから消防用ホースの撤去を命じるなど、衝動的な部分が強く現れるようになっていた。そして、出港後は自室へ引きこもるようになり、船の運行は部下に任せつつ、彼等への指示も電話で出すようになっていた。亡くなる前には、船員が自分を殺そうとしているといった被害妄想を募らせるほど、精神状態が悪化していたとされる。そして、火災発生の数時間前、指示を仰ごうとした航海士が、浴槽で船長の死体を発見したのである。
船長の急死を受け、航海士が船長代理を務めることとなったが、船内の混乱は避けられなかった。そのような状態で、モロ・キャッスルは運命の夜を迎えたのである。
船長の急死から数時間後に発生した火災は、果たして偶然なのだろうか? 船長は殺されると周囲に漏らしていたが、それは本当に単なる被害妄想だったのか? そして、悲劇から数年後、真相を知る人物が現れた。(続く)