主人公は「ごんべえ」と名乗ってはいるものの、モデルとなっているのは第64〜65代内閣総理大臣である故田中角栄氏その人。氏は当時の自由民主党における金権政治を体現する人物で、1976年にロッキード事件で逮捕、83年には懲役5年の有罪判決を受けている。
本作はその2年後の85年に発売された固定画面式のアクションゲーム。1レバー2ボタンの操作系で、レバーで主人公の移動、ボタンで主人公のジャンプと攻撃が可能になっている。攻撃ボタンはステージによってパンチか扇子による攻撃になっており連打も効く。ジャンプは池にある石の上へ飛び移る際や敵キャラを飛び越える時に使用する。ゲームの目的はフィールド上に落ちている金塊を拾い集め、自宅に持ち帰ることなのだが、ステージによっては自宅が国会議事堂になっており、暗に外で集めてきた金を国会に持ち込むことを示唆している(自宅に持ち帰るのも問題だが)。金塊は一度に多く持ち帰るほど高いボーナス点が得られ、その点数はキャラの頭上に表示されている。ちなみに、金塊を持ち帰った時に「わっはわっは」のメッセージが表示されるが、ロケテスト時はこれが田中氏の口癖とされる「よっしゃよっしゃ」であったという。
これだけでも充分問題になるのだが、本作はさらに無茶をしたゲームになっている。それは敵キャラが全て日米の有名人を模したキャラで構成されていることで、タモリ、ジャイアント馬場、瀬古利彦、マイケル・ジャクソン、マリリン・モンロー(敬称略)をパロったキャラが各ステージに登場する。また、各キャラは本人を活かした特徴を持ち、たとえばジャイアント馬場は耐久力が高く、瀬古利彦はジャンプしながら移動し攻撃が当てにくい、マリリン・モンローは投げキスで攻撃、マイケル・ジャクソンはムーンウォークで移動する。そのうえ、各キャラにつかまった場合のヤラれポーズまでそれぞれ用意されているほどの凝りよう(タモリにつかまると裸にされてムチで叩かれる、ジャイアント馬場につかまるとシュミット式バックブリーカーを決められる)なのだが、全てが無許可(推定)であるところが恐ろしい。
上記敵キャラのほか、各ステージで無敵のタルがフィールドを移動しており、これが執拗に主人公を追いかける最強の敵になっている。単体であればジャンプで簡単に飛び越えられるのだが、他の敵キャラと一緒に移動しているとやっかいで、数体の敵キャラとタルが連なるように主人公を追ってくるのはよくあること。ジャンプでも飛び越えきれず、パンチはタルに効かないというこの状況を打破するにはワープゾーンの利用が効果的である。敵はここには一切進入できないようになっているため、画面下のワープゾーン入り口は安全地帯になっており、この存在を知っているかどうかで攻略難易度は大きく変わる。
ここまでの説明を読むと、本作はとんでもないクソゲーのように思われるかもしれないが、バカなゲームではあるが、クソゲーでは決してない。操作性は良好でありアクション部分の出来も当時としては高いといえるだろう。また、隠し要素が豊富に用意されており、それを見つけ出してボーナス点を狙っていくのも面白い。難易度的にもちょうどよく、ある程度練習すれば1周クリアは楽にできるようになるが、以降は敵の種類も増え、新たなギミックも加わるため難しくなっていく。演歌調のBGMも異様にノリがよく、思わず口ずさんでしまうほどだ。
ただ、先にも述べたとおり、あまりにも尖った仕様であるため、家庭用ハードなどに移植されたことはなく、そのためマイナーなゲームになってしまっている。まぁマイナーであったからこそ何の問題にもならなかったとも言えるのだが。ちなみに、本作の開発元であるコアランドは後にバンダイの子会社となり、バンプレストと名を改めることになる。バンダイグループの版権事業の中心であった同社が、過去にこういったゲームを発売していたことは何とも皮肉な話であるようにも思える。
余談ではあるが、本作のようなパロディゲームがお好きな方にオススメしたいゲームがもうひとつある。それがジャレコから87年に発売された『銀河任侠伝』で、こちらは実在の人物からアニメ、特撮、映画、ドラマのキャラまで多数登場している横スクロールのアクションゲーム。ザク、寅さん、ランボー、輪島、南野陽子、ジャイアントロボといった何の繋がりもないキャラが入り乱れる様は壮観だが、ゲームとしての完成度があまり高くないという欠点もある。(須藤浩章)
■DATA
発売日…1985年
メーカー…セガ/コアランド
ハード…アーケード
ジャンル…アクション
(C)1985 CORELAND/SEGA