『ラスト・ワルツ』柳広司 角川書店 1400円(本体価格)
当然のことではあるけれど、かなりの好評を博した小説がシリーズ化されるのは、読者が1作目で味わった快感をさらに堪能したい、と強く思うからなのだ。柳広司〈ジョーカー・ゲーム〉シリーズは今や間違いなく人気シリーズの一つと言っていい。1作目『ジョーカー・ゲーム』が出たのは2008年。これは翌年、吉川英治文学新人賞と日本推理作家協会賞を得ている。そして同年に2作目『ダブル・ジョーカー』、'12年に『パラダイス・ロスト』と継続刊行されてきた。全て短篇集である。先月1月31日から入江悠監督、亀梨和也主演で1作目を映画化した『ジョーカー・ゲーム』が公開されている。
もちろんベストセラーになった小説が全てシリーズ化されるわけではない。むしろされない方が圧倒的に多いだろう。〈ジョーカー・ゲーム〉シリーズの場合、各短篇の世界観に揺るぎがないところに強みがある。第2次大戦下、結城という中佐が陸軍内に設立したスパイ養成学校“D機関”の訓練の様子を描く最初のエピソードは、全ての短篇のプロローグとなっている。他人を欺き情報を得るためにはいかなる手段も使う、という徹底したドライさがこのシリーズ最大の魅力だ。それは敗戦を招いた原因とされる日本人特有の根性論と対立するものであり、結城中佐の教えは、いわば戦争批判にもなっているわけだ。さて本書『ラスト・ワルツ』はシリーズ4作目に当たる。3篇収録だ。「アジア・エクスプレス」は満鉄特急の車内、「舞踏会の夜」はアメリカ大使館の舞踏室、「ワルキューレ」はドイツの映画撮影所、と舞台に趣向を凝らしている。舞台の描写そのものが時代背景を語っているわけだが、そういう中で完璧に他人を欺き続けるスパイの姿は確かにクールだが孤独だ。そう、本当のクールは寂しいものだ。しかし多くの読者がそこに共感しているのである。
(中辻理夫/文芸評論家)
【昇天の1冊】
「俺が結婚していなかったらなぁ」「あのコ、きれいだったんだけど」「(どこへ行く? …と聞かれ)任せるよ、キミの好きな所でいいよ」「言ってくれればやったのに」
男なら、女性との会話の中で普通にクチにしてしまったことがあるセリフだろう。だが、実はこうした何げない一言は、男に言われて女性が萎えるNGワードなのだとか…。
『男の失言辞典』(河出書房新社/定価620円+税)は、女性が思わず引いてしまう言葉の数々をズラリと並べており、何とも妙な気持ちにさせてくれる書籍だ。しかし、理由を読むと、なるほど、それなりに納得できる解説が掲載されている。例えば−−。
「俺が結婚していなかったらなぁ」→《独身女性からすると、憐れみを伴った上から目線に聞こえる》「あのコ、きれいだったんだけど…」→《女にとっては加齢という現実を突き付けられる》…といった具合だそうだ。さらに、「2時間しか寝てねぇーよ」「俺は勝ち組」→《仕事で忙しいことを自慢する男はうっとうしい》「胸、大きいね」「最後にセックスしたの、いつ?」→《言語道断のセクハラ!》と続く。
著者は、フリーライターの小山祐子さんを中心としたネットワーク小町という女性集団。主婦、OL、自営業と、さまざまな職業の女性たちが参加しているらしい。それだけに、♀の本音をズバリ吐露した赤裸々さに満ちており、あらためて女心は複雑…と感じざるを得ない。
何事も後悔先に立たず、覆水盆に返らず、だ。
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)