「勝つと負けるんじゃ激しい差がある。勝負の世界には“勢い”という、言葉ではなかなか言い表せないものがあるからね」 ダイワスカーレットVSウオッカ。桜花賞史上に残る名勝負を制し、まだ興奮冷めやらぬ表情の松田国師が、目に見えない運命の“赤い糸”をこう表現した。
もっとも、その“勢い”も「労」「策」なくしてはつかない。「牝馬の場合、走ると引っ掛かるはもろ刃の剣。TRのチューリップ賞(2着)を勝ちにいっては本番は難しくなる」。スカーレットの桜戴冠は肉を切らせて骨を断つかのごとく、愛馬を完ぺきに仕上げた辣腕トレーナーの戦略と、「瞬発力勝負ではかなわないからワンテンポ仕掛けを早くして相手に長く脚を使わせた」名手・アンカツ(安藤勝騎手)の戦術が見事なまでにフュージョンし、実を結んだ格好となった。
そして、迎える皐月賞…。ウオッカの牙城を崩したスカーレットの激勝はフサイチホウオーにとって、何よりのその言い表せない“勢い”になるに違いない。
今年の牡馬クラシックは戦国ムードの前評判。が、しかしである。20分もの審議時間に関係者も顔面蒼白になった暮れのラジオNIKKEI杯2歳S、直線の攻防では常に右にモタれ左にモタれ、「ハラハラ」「ドキドキ」の連続。誰しもに危うさを感じさせながらも、ホウオーは新馬圧勝デビューから東スポ杯2歳S→ラジオNIKKEI杯→共同通信杯と数多くの名馬がその蹄跡を刻んだ出世重賞をことごとく突破してきた。
しかも、名手・アンカツに、「まだ一度も本気で走っていない。もう一段奥のギアがあるはずなんだけど」と言わしめる底知れないポテンシャルに、「サンデー(サイレンス)が入っていると余分な肉がつかないが、腹回りは男馬らしくしっかり。走る馬は背腰を使って走るため、痛みやすいが、共同通信杯後は一度も緩みが出なかった。また、できる限りアンカツさんが調教にまたがってもくれているから、質のいい負荷がかけられている」とダービー2勝の名調教師が磐石の調教を施せば、この皐月賞はおろか、3勝目のダービー制覇、いや、史上7頭目の3冠馬誕生すら夢物語ではない。
「(直前は)もう少しきれいな追い切り(併せ馬でクビ遅れ)をやりたかったが、併せたビーオブザバンも大きいところを狙えると思っていた馬。その馬を後ろから追っかけたんですからね。男馬に必要な相当な負荷がかかったケイコだったし、全部満足しています。やることはすべてやってきました。あとは成長面を皐月賞の結果で判断したい」
会見場では言葉少なだった師だが、「今回はもう一段奥のギアを探す」テーマをクリアすれば、「オーナーから預かったときからダービーを勝つためにやってきた」という歴史に残る大偉業を達成できるはずだ。