「その女性、今となっては元カノは、偏差値の高い大学を出てから、就職先が見つからないことに悩んでいて。それならと、自分の会社に事務員として雇ったんです。元カノは、しょっちゅう仕事でミスをしていました。いわゆる“おバカキャラ”という感じでしたね」
元カノの“おバカキャラ”である一面も、彼氏であるSさんにとっては、好ましく思えたそうだ。
「自分は高卒で会社を立ち上げたので、学歴にコンプレックスがあって。だからこそ、偏差値の高い大学出身の元カノに、社長としていろいろなことを教えてあげている、という立場でいられることがたまりませんでした。今思えば、自分も歪んでいましたね⋯⋯」
そんないわば歪んだ上司と部下、また、恋人関係だった二人。そんなある日、元カノの“おバカキャラ”が、笑い話では済まされない形で発揮されてしまう。
「取引先の○○社の人からお電話です、と元カノから言われて。相手は結構厄介な人物だったし、自分もそのとき手が離せなかったので、『そんなやつには、おととい来やがれとでも言っておけばいいんだよ』と、適当に答えてしまったんです。そうしたら、元カノは電話対応に戻るなり『社長が、おととい来やがれ!だそうでーす』と…当然、先方は激怒し、その後の取引は白紙になりました」
Sさんは、自分の対応が悪かったのだろうと、その件に関しては許せたのだという。ところが後日、元カノの恐ろしい本性を知ることになる。
「『私が“おバカキャラ”なのって、全部演技なんだよね。あの電話対応、なかなかだったでしょう?』と、デート中に真顔で元カノに言われて。元カノは多くは語ってきませんでしたが、背筋が凍りつきました。すぐに別れて、会社も辞めてもらいましたが、それ以来、自分は女性に恐怖心を持つようになってしまって、それからは誰とも交際していません」
Sさんの元カノが、なぜ“おバカキャラ”の演技をしていたのかは、元カノ本人にしかわからない。ただ一つ言えるのは“おバカキャラ”だと下に見ていた相手に、時には足をすくわれることもあるということである。
文/大久保 舞