ただ、このようなニセ科学の浸透は経産省に限ったものではなく、ニセ科学やニセ歴史を代表する「水からの伝言」と「江戸しぐさ」が教育現場へ忍び込んでいったスキャンダルを始めとして、実証が都市伝説に負ける国辱的状況はかねてより問題視されており、自治体作成の歴史紹介小冊子にも内容がずさんすぎるとして回収に至った事例がある。
中央省庁の官僚はもちろん、自治体職員であっても難関とされる公務員試験を突破したエリートである。にも関わらず、ごく基本的な事実認識の致命的な錯誤を放置したり、初歩の科学や歴史知識があれば避けられるニセ科学やニセ歴史にころっと騙される。なぜ、このようなことが発生するのだろうか?
経済産業省の『世界が驚く日本』研究会については、あまりにも理解しかねる内容の貧しさから、癒着や陰謀すら取り沙汰されているが、実のところは比較的シンプルかつ、必然的な成り行きだったとの指摘もある。
それは、クールジャパンというコンセプトそのものが日本人に対する肯定的ステレオタイプの強化を目的としており、そのためニセ科学やニセ歴史の混入は避けられない、むしろ必然だったというのだ。
まず、ステレオタイプとは対象の実態観察および実証を経た定義ではなく、まず定義ありきで対象を当てはめる。言うなれば、たとえ実態との関係性が乏しくとも、時には無関係な偏見であっても、その定義によって実態を認識すること、およびその定義である。さらに、その定義でさえも、多くは対象に由来するものではなく、基本的に「定義する側の文化や偏見」によっている。
つまり、クールジャパンというコンセプトは、現代日本の文化や生活を紹介するものではなく、あくまでも「中央省庁の高級官僚と政治家がイメージする非実在日本」であり、さらに言えば彼らの「願望」にすぎない。そして、そのイメージや願望が実態とかけ離れていればこそ、事実に基づく実証的な研究や情報はむしろ邪魔な存在であり、ニセ科学やニセ歴史の侵入を許す、それどころか積極的に擦り寄っていく構造的な問題があるというのだ。
また、このような伝える側にとって都合の良いイメージや願望を肯定するニセ科学やニセ歴史の変形が都市伝説であり、陰謀論でもある。そのため、都市伝説や陰謀論を研究する際には、それを伝えた側がいかなるイメージや願望を秘めていたのか、その点を洗い出すことが重要となる。
クールジャパンの名のもとに新たな官製都市伝説の誕生に立ち会っているいまこそ、その点を踏まえたオカルトミステリーの新次元を切り開きたいものだ。
(了)