『腸を鍛えれば頭がよくなる』 マキノ出版 1300円(本体価格)
−−タイトルにもあるように腸と頭は関係があるんですか?
辨野 お腹が空いてイライラした経験がある人は多いと思います。これは腸内細菌が怒りの物質を出しているからなんです。そのようにこれまでにも「腸は第2の脳」と呼ばれていました。それは私たちが寝ている間も、腸は脳からの指令がなくても消化吸収をし、独自の活動をしているからです。私たちの研究チームが昨年、マウスを使って調べたところ、腸内細菌が脳内神経伝達物質であるドーパミンの産出量のバランスを担っていることがわかりました。ドーパミンが過剰に生産されると統合失調症の引き金となったり、逆に枯渇すると認知症やアルツハイマー病、パーキンソン病の原因になってしまうことが知られています。この研究から腸は第2ではなく「第1の脳」と表現する方が適切かもしれません。現時点では腸内細菌が脳内の情報伝達やエネルギー代謝に関わる物質の産出に影響を及ぼすことが判明しています。
また、幸せホルモンとして知られるようになったセロトニンは、実は脳ではなく、腸内で約95%がつくられています。他にも肥満と腸内細菌の関係も指摘されていますし、腸が若い人ほど脳や見た目が若いという調査結果もあります。ですから、腸内細菌をいかにコントロールするかが健康になるための重要なポイントです。
−−健康になりたければ腸内環境を整えるべしということですね。具体的に日常生活でどんなことに気をつければ良いでしょうか?
辨野 大事なことは「三つの力」です。まずは「うんちをつくる力」。これは、どんなものを食べれば良いうんちが出るかです。そのためには、食物繊維が豊富な野菜などを多めに摂るようにします。またお肉をよく食べる方は、肉の約3倍の量の野菜を摂るようにしましょう。理想的なうんちは、あまり臭わず、色が黄褐色で、まわりが食物繊維でゴワゴワしていて、男性なら300グラム前後です。
二つ目は「うんちを育てる力」。これは腸内の善玉菌の代表であるビフィズス菌をいかに増やすか。そのためには、ヨーグルトや乳酸菌飲料、納豆などの発酵食品を積極的に摂ることが重要です。
そして三つ目が「うんちを出す力」。大腸に集まった大便を押し出すには腸腰筋などのインナーマッスルを鍛える運動が大事です。この三つを実行し、毎日トイレでご自分の分身と対面し、その日の調子をチェックする習慣をぜひ身につけてください。
(聞き手:本多カツヒロ)
辨野義己(べんの よしみ)
1948年、大阪府生まれ。理化学研究所特別招聘研究員。農学博士。「うんち博士」としてマスコミ出演や著書も多数。