手放しでは喜べない?エイシンデピュティの価値を下げたのが、惜しくもアタマ差2着に敗れたメイショウサムソンが、直線でこうむった決定的な不利だ。
戦犯はアサクサキングス。まずは直線、内に切れ込んでインティライミの前をカット。直後に今度は外に大きく膨れ、サムソンと接触。そのせいでサムソンは右トモを滑らし、やむなくギアを一段落とさざるを得なかった。武豊騎手が「(不利に関しては)見てもらった通り」と憤慨するほど、誰が見ても明らかなキングス=四位騎手の失態だった。
四位は騎乗停止こそ免れたものの、合わせて8万円の過怠金。今季は2年連続でダービー制覇を果たすなど絶好調だったが、好事魔多しとはまさにこのこと。上半期最後の大一番でミソがついてしまった。
後味の悪いGIといえば、トールポピーの斜行が物議を醸した先のオークスが思い起こされる。ただ、今回の救いは勝ち馬がアクシデントにまったく関与していなかったことだろう。とくに、テン乗りで逃げ切りを決めた内田騎手のレースと馬の性格を“読む力”は評価されてしかるべきだ。
「この馬場なのである程度前に行かないとね。それと調教で乗った時に掛かる馬ではなかったし、跳びもすごく大きかったから。(岩田騎手の)代打で結果を残せたのがうれしい」
地方で培った腕っぷしの強さが、典型的な“二枚腰”タイプのデピュティと見事にシンクロした格好だった。
17年ぶりのGI制覇となった野元師は「わざわざ美浦から最終追い切りに駆けてつけてもらい、馬の性格をつかんでくれたのが大きい。それにしてもよく乗ってくれた」と絶賛。一方、不利に泣いた武豊も自ら内田に握手を求め、中央移籍後初のGI勝利を称えた。
思い起こせば内田騎手は、周囲をアッといわせた昨年のNHKマイルC(ピンクカメオ)優勝時も、テン乗りで道悪だった。騎乗馬がともに道悪に強いフレンチデピュティ産駒だったといえばそれまでだが、条件がタフになればなるほど力を発揮する、そのエネルギッシュな騎乗ぶりは地方でトップに君臨してきた男の真骨頂といえるだろう。