田澤といえば、3月半ばのオープン戦から痛めていた右肘にメスを入れることになった。球団発表によれば、「復帰まで、1年は掛かる」そうだ。この田澤の『右肘痛』に対し、日本のプロ野球・スカウトマンたちは異口同音にこう言う。
「(右肘の故障は)やると思ってたよ…」
彼らは田澤の投球フォームにおける悪癖を見抜いていた。右腕を担ぎ上げるような投げ方だったので、右肘が窮屈そうに動いていたという。また、古巣・日本石油NEOSの関係者も新聞紙上で「肘に負担の掛かるフォークボールを多投していたので心配だった」とコメントしている。プロ野球側は指名・獲得後、投球フォームを微調整するつもりでいたのだが、田澤はアメリカという夢を追い掛けていった。
「昨季、メジャー昇格を果たしたわけだけど(6試合)、肘に負担を掛ける悪い投げ方は変わっていませんでした。だから、いつか肘が壊れるんじゃないかって…」(在京球団スカウトマン)
プロ野球・スカウトマンの眼力は認めるとしよう。では、超高校級左腕・雄星を、本当はどんなふうに評価していたのだろうか。
「今だから言えるけど、彼は甲子園で背筋痛を訴え、最後は満足に投げられませんでした。彼は背筋を痛めやすい投げ方をしていたんですよ。右足の踏み込み方がおかしかったので、上半身に無理が掛かっていました。西武首脳陣も分かっていましたよ。まあ、プロで修正可能な範囲だけどね」(別のスカウトマン)
キャンプインからの約2カ月間、雄星が精彩を欠いていたのは、『投球フォームの微調整』も影響してのことのようだ。田澤は『悪癖修正の機会』がなかったために、手術に至ったということか…。
一般論として、メジャーは長所を伸ばし、その後で短所も修正させる。日本球界がその真逆の傾向が今も根強く残っている。日本のスカウトマンたちは田澤の将来性を認めているから厳しい言い方になるようだが、こんな指摘も聞かれた。
「日本人投手は投球練習量が多すぎる。『だから、3、4年でダメになる』という批難も、米国メディアにはあります。松坂大輔が昨季、故障・不振に見舞われた要因の1つに『アメリカ流の調整』に馴染めなかったことも挙げられます。松坂は高校時代から相当数の投げ込みをし、身体のキレも作ってきました。ブルペン投球数に制限を設けているメジャーでは、監視役まで付けて松坂を制御してきましたが、結果、彼のためにはなりませんでした。松坂には日本流の調整が染みついており、将来のメジャー挑戦を考える日本人投手は、アメリカ式の調整を若い時期に取得すべきではないだろうか」(プロ野球解説者の1人)
田澤のメジャー挑戦を現時点で「失敗」と決めつけることはできないのだ。メジャーには肘にメスを入れた後も第一戦で活躍した一流投手はたくさんいる。
ちなみに、雄星が初勝利を挙げた試合後、石井貴・二軍投手コーチはこう語っていた。「試合に入ったら、(修正中の)フォームは関係ない。思い切り行け、と」−−。細かいことを気にしすぎるのは雄星の悪いクセだ。しかし、この日の勝因が「気合い」だったとすれば、日本プロ野球界の育成ビジョンも怪しい限りである。