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USA発 新聞、テレビではわからないMLB「侍メジャーリーガーの逆襲」 観客動員はリーグ最低だったが… マーリンズの視聴者数が50倍に “イチロー効果”に注目せよ

 マーリンズがストーブリーグ終盤の今年1月になって、行き先が決まっていなかったイチローと契約したのは、独特のチーム編成方針があるからだ。それは、レギュラー陣を自前で育てた優秀な若手で固め、それに実績のある大ベテランを一人付けてお手本、ないしは助言者として活用するというもので、球団は最終候補に41歳のイチローと31歳のネイト・シアーホルツをリストアップし、最終的にまったく接点がなかった日本のマーケットや球界と関係を切り開くチャンスにしようということでイチローを4人目の外野手として迎え入れた(シアーホルツは広島カープでプレーすることに)。

 この判断を下したのは、ワンマンオーナーのジェフリー・ロリアだ。
 マーリンズはメジャーきっての不人気球団だ。'12年に新球場ができたのに'13年'14年と2年連続で観客動員がリーグ・ワーストだったのは、ロリアオーナーが住民の税金で新球場を建ててくれれば我が球団は補強に大金をつぎ込むと約束していながら、約束を守らなかったからだ。地元ファンはこれに怒って球場観戦ボイコット運動まで繰り広げたため、新球場は閑古鳥が鳴くことになった。
 地元ファンに愛想を尽かされた影響はテレビ視聴者の激減にもつながり、地元局のマーリンズ戦実況中継の視聴者数は一時2万以下になった。その後、スタントン、イェリッチ、オスーナら魅力的な若手の台頭で多少盛り返したとはいえ、昨年も視聴者数は3〜6万人台にとどまっている。

 イチロー効果が真っ先に表れたのは、テレビ視聴者数と広告収入だ。
 今季NHKはイチローの移籍に合わせてマーリンズ戦の実況中継を90試合前後、放映する予定だ。イチローは4人目の外野手という立場で、スタメン出場するのは50試合程度と予想されていたが、それでも他の日本人選手より視聴率が稼げるため、マーリンズ戦が優先されることになったのだ。
 NHK-BS放送の大リーグ中継の視聴率は、10年くらい前には松井とイチローが直接対決する試合で10%を超えたことがあったが、最近は休日で2〜3%台、平日は1.5〜2%程度と見積もられている。それでも視聴者数は150〜300万人に達する。それにより、マーリンズのテレビ視聴者数は一気に50倍になった。
 日本で90試合もマーリンズ戦が放送されるとなると、スポンサーもテレビに映るバックネット・フェンスの広告に魅力を感じる。イチローをCMに起用している佐藤製薬は機敏に動いて開幕からユンケルの広告を展開。他の日本企業からの引き合いも来ているようだ。

 こうした「イチロー効果」は、悲願であるメジャー3千本安打達成の大きな助けになるだろう。なぜなら3000本まで150本を切った今のイチローにとって、一番必要なのは「今季の330打数」と「来季の200打数」だからだ。
 年齢的な衰えが進行するイチローに打率3割を期待するのは酷というものだ。しかし2割6分ないし7分くらいなら十分可能だ。今季330打数欲しいのは、2割7分なら89安打、2割6分なら86本安打を加えて今季末の時点で通算2940本くらいまで持っていくことが可能になり、さらに、来季の契約も手繰り寄せることができるからだ。
 今季330打数を確保するには、先発出場が70試合前後、代打出場が80試合前後必要になるが、マーリンズはイチローを毎試合出すことを自分たちの義務であるかのように開幕から毎試合代打で起用。オスーナが練習に遅刻したときは、イチローにスタメン出場の機会を与えた。さらに昨年ゴールドグラブの左翼手イェリッチが4月下旬、腰に張りが出てDL入りすると、ジェニングスGMは無理に早期復帰させずイチローをしばらくスタメンで使い続けた。こうした判断はイチローを優先的に使うという球団の意思が働いているように思えてならない。

 マーリンズは1993年創設の歴史の浅い球団なので、チームに在籍する選手が球史に残る大記録を達成したことがない。それもあって先日イチローが王貞治の通算得点記録を更新したときは、他球団だったら無視したと思われるのに、電光掲示板でそのことを知らせ、イチローがスタンドのファンのオベーションを受けられるよう配慮している。チームメートの態度も敬意に満ちたものだった。メディアの扱いも破格の大きさで、大記録慣れしていないことを窺わせた。
 それを考えれば、米国でも大記録と見なされている3千本安打達成のときは、かなりの騒ぎになることは容易に察しが付く。抜け目のない経営で知られるロリアオーナーは、日本のマーケットを睨みながら、それを営業面での切り札としてフルに活用するのではないだろうか。

スポーツジャーナリスト・友成那智
ともなり・なち 今はなきPLAYBOY日本版のスポーツ担当として、日本で活躍する元大リーガーらと交流。アメリカ野球に造詣が深く、現在は各媒体に大リーグ関連の記事を寄稿。'04年から毎年執筆している「完全メジャーリーグ選手名鑑」(廣済堂出版)は日本人大リーガーにも愛読者が多い。

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