「敷地内で見聞したことは敷地内で喋るのはいいが、敷地外では絶対に喋るな!」
と厳命され、徹底した秘密主義が貫かれているからだ。作業員が6000人もいれば、敷地内のあちらこちらを撮影され、写真が外部に漏れることもあり得るだろう。
それが不思議とないんだ。その気になれば、撮影できないことはないけどね。でも、写真撮った携帯は現場から簡単に持ち出せない。
携帯取り出すには、上下ツナギ服のファスナーを開けなきゃならない。取り出しても、汗が入らないよう携帯はビニール袋に包んである。ビニール袋から携帯出して、撮影後、また仕舞い込んで、ファスナーを閉める−−その様子を監視カメラがどこかで睨んでいるはずだ。
カメラがどこに取り付けてあるか、俺たちにはその場所がよくわからない。だから、うかつなマネはできないんだ。
そこまでやって、やっと撮影したとしても、作業終了後に放射線量の検査がある。携帯を1回でも外に取り出したら線量が高くなるから引っかかるし、その携帯は検査のため預けなきゃならない。その際、カチャカチャやられて、そこに現場の写真なんか写っていたら当然、
「何が目的で撮った?」
と問い詰められる。「写真が趣味だから」とか「家族に見せたいから」なんて言い訳は通用しない。結局、撮ったのが弱みになって、ますます奴隷化されるのがオチだ。それともクビにされるかも。
実は、去年秋ごろ、休憩所の窓からスマートフォンで写真撮って、こっぴどく叱られた作業員がいる。
「入ったばかりの新米で、うっかり撮ってしまった。スミマセン」
と素直に謝ったから、それ以上の問題にはならなかった。写真もその場で削除したしね。
後で聞いたところでは、平(いわき市)にあるスナックの中国人ママに入れ込んでいて、そのママにそそのかされて撮ったらしい。どうして、中国人ママが事故原発の写真を欲しがったのか理由はよくわからない。
俺もその店で何回か飲んだことあるけど、ママは美人タイプじゃない。ただおっぱいがデカイだけ。ホステスは3人が3人とも中国人だ。その1人とは3万円で寝たことがある。ウンともスンとも言わないデクノボウで、汗水流して稼いだカネが無駄になった。後悔の一言に尽きるよ。
客も中国人が多いんだ。カラオケで春日八郎の『赤いランプの終列車』、美空ひばりの『みだれ髪』を見事に歌うカップルがいたが、この2人も中国人だった。夫婦だったね。
ひょっとしたら、ママは中国のスパイ組織と関係あるかもしれないよ。そうでなけりゃ、事故を起こした原発の写真なんか欲しがらないだろ。
作業員の中にも中国人がいるにはいるが、連中は写真を撮るなんて、そんな危ない橋は渡らないはず。見つかれば、おマンマ食い上げになってしまうから。
孫請けの会社はさほど気にしていないが、東電、元請け、下請けは、敷地内の様子が外に漏れるのをものすごく警戒している。週刊誌(本誌)に「現役作業員が内部告発」の記事が出たら、早速朝礼でこう言われたよ。
「週刊誌の回し者、要するにスパイが身近にいるから気をつけろ。それとなく探って、それらしい作業員がいたら、すぐ上に報告してくれ。ただし、スパイ捜しに夢中になりすぎて、肝心の仕事をおろそかにすることだけはやめてくれ」
ってね。作業員仲間からクスッ、クスッって笑い声が聞こえたけど、俺はドッキリ、ガックリだ。作業員の現実を世間に知らせるのがスパイ行為だなんて、どうにも腑に落ちない。
作業員はそれ以来、半分冗談、半分大真面目に、
「アンタ、まさかスパイじゃないだろうな」
なんて言い合っている。まあ、挨拶代わりって感じだね。黙っているのは不自然だし、ヘンに思われてもマズイから、俺も皆に合わせている。上手にトボけて、その場を切り抜けるって、ホント、難しい。
隠したい現実が外にさらされ、東電、元請けの連中は怒り狂っているはずだ。
(以下次号)