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キャバ嬢列伝 〜帰ってきたキャバ嬢〜

 今から3年ほど前、東北地方にある某人気フィリピンパブにとある女性が勤務しだした。その女性の名はジェニファー(仮名)。フィリピン人独特のエキゾチックな顔立ちとメリハリのあるスタイル、フレンドリーな性格などが受け彼女はたちまち人気ナンバーワンの売れっ子になったという。

 彼女の接客を受けたとある男性はこう語る。
 「ジェニファーさんはとても気さくな良い方で、初対面のお客さんには必ずあらゆる質問をするんですよ。『仕事は何をやっている?』とか『家族は?』とか…本当に他愛のない簡単な質問ばかりなんですが、女性と話す事が大好きな僕としてはこんな簡単な質問でもとても楽しかったんです。なんか無邪気でかわいいじゃないですか…」

 彼女の『質問攻撃』は一般のサラリーマンはもとより、地元の有力者、さらには『そっちの筋』の人間にまで平等に繰り広げられ、周囲をほんわかした空気に包み込んだという。

 ジェニファーはそのまま『天然ボケの女王』としてその人気を不動のものにするが、ある日、忽然と姿を消した。母国に帰ったという噂もあれば、とある常連客と結婚し引退したという噂までありハッキリしなかった。

 それから2年の時間が流れ、人々がジェニファーの事を忘れかけようした頃、この『質問女王』は日本に再びやってきた。ただし、東日本大震災の国際ボランティア活動員の一人として。
 被災者となり、避難場所だった近場の小学校で彼女に気がついた元常連客は、ジェニファーに質問をした。すると、ジェニファーの国籍はフィリピンでは無く、インドネシア人だったことが判明。フィリピンパブにいた頃は国籍を隠していたのだ。「なぜ」と常連客が聞くと『元・質問女王』彼女はこう答えたという。
 「わたしの国も津波で大変な被害を食らった…日本に来てお金がたまったのでお店を辞めたんですが、日本がこんな状況になったので感謝をしたかったのです…」

 彼女の実家は2010年のスマトラ沖地震で崩壊。彼女は同情されるのを恐れてあえてフィリピン人として勤務していたのだ。
 インドネシア人はとてもフレンドリーな国として知られている。彼女の国で『質問』はあいさつ変わりに近いものだという。彼女はその自国での武器を最大限に活かし、被災地でも多くの人の心を和ませ、勇気づけているという。

(和田大輔/山口敏太郎事務所)

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