しかし、快挙達成を素直に喜べない野球関係者がいたことも事実。これによりNPBが抱く“ドリームチーム”について、イチローと相談するタイミングが難しくなってしまったという。
「東京五輪の追加種目で、野球・ソフトが『かなりの確率』で当選する見通しとなりました。その野球競技を盛り上げるためには、イチローにも協力してもらわないと…」(球界関係者)
日本代表監督にイチロー。そんな“ドリームチーム論”が出ていたのだ。
そもそも、「空手有利」と伝えられていた2020年の東京五輪の追加種目で、野球・ソフトボールが“当選濃厚”となったのは、五輪組織委員会の失態続きによるものだった。新国立競技場の設計問題、エンブレムのパクリ疑惑、聖火台の一件、昨今ではワイロ疑惑まで海外メディアが報じている。このうえ、日本人の一番関心の高い野球・ソフトが落選するようなことになれば、組織委は「何やってんだ!?」と強い国民批判を浴びることになる。
「北京五輪で国内視聴率のトップスポーツは野球でした。野球・ソフトが当選すれば、広告出資が確実に増え、大会運営費不足も解消できます」(スポーツライター・飯山満氏)
追加種目で争うライバルの空手は、日本が発祥地とされている。世界180以上の国と地域が世界空手連盟に加盟しており、競技者人口も約6000万人。追加競技の最終決断を下すIOCは野球・ソフトの「国際的普及度の低さ」を懸念していた。こうした野球・ソフトの弱点を“隠した”のが、立候補した5種目18競技をいっぺんに協議する「パッケージ式」だった。
「組織委の会長でもある森喜朗元首相が水面下で働きかけ、パッケージ式になりました」(政治部記者)
しかし、野球・ソフトは当選後に本当の問題に直面する。まず、ヤクルト球団の本拠地でもある神宮球場が使えない。高校、大学、社会人の野球組織とも話し合わねばならず、NPBは五輪イヤーの「ペナントレース中断」も視野に入れている。
「侍ジャパンの小久保裕紀代表監督の任期は'17年WBCまで。年齢的に見れば再任可能ですが、その第4回WBCでは『優勝以外は敗戦』というのが野球ファンの認識です。そうなると不安も…」(前出・球界関係者)
また、五輪野球に参加するのは6カ国。2分の1の確率でメダルが取れる。「そんな状況下での金メダルに価値があるのか」と突っ込むメディアも出てくるだろう。そんな雑音を封じ、かつ日本だけではなく、世界が注目する野球競技へと盛り上げていくためには、伝説の打者となったイチローの協力が必要不可欠だ。
「あと20本で(6月20日時点)、メジャー史上30人目、日本人初の大リーグ通算3000本安打達成です。今季中の記録更新は十分可能です。ただ、イチローの言動を見る限り、記録更新を自らの野球人生のゴールに設定していないようですし、来季も現役を続けるみたい」(同)
イチローに監督就任の意思があるかどうかは別として、古巣・オリックスは「将来はイチロー」と見ている。
「オリックスは監督人事でモメそうですね。福良淳一監督率いるチームは負けが込んで最下位を独走中。一・二軍コーチの配置換えをしても焼け石に水、『次は監督の去就』と目されています」(在阪記者)
4年後、イチローは現役を続けているだろうか。NPBは「タイミングを見計らって」のスタンスだが、オリックスは事情が違う。
「NPBの規則だと、日本人メジャーリーガーはオフの期間、12球団の練習施設を使えないんです。球団が許可を出し、届け出をすればOKなんですが、そういう細々とした手続きを、オリックスはイチローのためにやってきました。オリックスカードのCMにも出演させているのは、彼との縁を切らないため」(同)
NPB内部には「東京五輪イヤーに大谷翔平はいない」との見方が支配的だ。メジャーリーグは、五輪はもちろん、WBCでもトップ選手の派遣を渋っている。ダルビッシュ有や田中将大など日本人メジャーリーガーたちの日本代表への合流は、まず考えられない。
「イチローが引退している」ことが大前提だが、目玉選手がいない場合、NPBが目論むのは、監督・イチロー、打撃コーチにゴジラ松井、投手コーチは黒田博樹。この3人が代表チームを牽引する。イチロー待望論は水面下で、すでに盛り上がり始めている。