私の若手時代、猪木会長はストロングスタイルの実践者であった。会長に出会えて幸せだったのは、セメントの部分で我々を裏切らなかったことだ。プロレスにおいてのアントニオ猪木像と、実際が一致していた。つまりセメントを通し、本物であったのだ。
ストロングスタイルの実践者の背を見て育ったことは、私にとって大きな財産である。セメントは選手が育って来ると、何時間やってもお互いとれなくなる。その日からレスラーとして認められるのだ。それでも飽き足らず、私は藤原敏男を有すキックの目白ジムに入門。強くなりたかった。
今考えると、そんなプロレスラーはいるはずもない。他の道場に行くという慣習のない当時、私は怒られると思い、仲間にもジムにも黙っていた。レスラーが最も強く、レスラーに打撃が必要という強い気持ちがあったからだ。
ところがある日バレてしまった。黒崎先生から新日に伝わった時、なんと猪木会長は喜んでくれたのである。お前を格闘技の第一号の選手にすると言われた時、最高の感激だった。
猪木のためなら死ねるとも思った。もし猪木会長がストロングスタイルの気質でなければ、こんな青春時代なかったかもしれない。
私の弟子の桜木や瓜田はセメントを受け継いでいる。瓜田はUKFの総合世界チャンピオン。桜木はUKFのキックの世界チャンピオンと、先日ロシアでワールドパンクラチオン無差別級の世界チャンピオンになった。
プロレスはお芝居を見に行くのではない。プロレスラーの勝負を“魅”に行くのである。