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「おぐらが斬る!」暗殺という安直なテロリズムを賛美してはいけない

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安倍元首相暗殺から1年。「この日本でこんなことが起こるなんて」と思っていたら、数か月後に岸田首相に爆発物が投げ込まれた。明らかに安倍元首相の影響を受けた犯行であった。

歴史を調べると、時の権力者を暗殺するという事件はたびたび起こっている。近代日本を例にとると、

・1878年(明治11)、政府の最高実力者であった大久保利通が不平士族によって暗殺。
・1909年(明治42)、伊藤博文が安重根によって暗殺。
・1921年(大正10)、安田財閥創始者の安田善次郎暗殺。
・同年、現職の原敬首相が暗殺。
・1930年(昭和5)浜口首相が狙撃され退陣、まもなく死亡。
・1931年(昭和6)、陸軍青年将校のクーデタ未遂事件。(三月事件・十月事件)
・1932年(昭和7)、2~3月に右翼の血盟団員が井上準之助前蔵相・団琢磨三井合名会社理事長を暗殺。(血盟団事件)
・同年5月15日には海軍青年将校の一団が首相官邸に押し入り、犬養毅首相を射殺。(五・一五事件)
・1936年(昭和11年)、急進的な陸軍青年将校が所属部隊から約1,400人の兵を率いて首相官邸等を襲撃し、内大臣斎藤実・蔵相高橋是清・陸軍教育総監渡辺錠太郎らを殺害。(二・二六事件)

などがある

今回は大正10年に起きた安田財閥創始者の安田善次郎暗殺事件に注目したい。

安田善次郎を暗殺したのは、職を転々とするような貧しい朝日平吾という国粋主義者であった。この朝日は「貧しい人のために労働ホテルを作りたい」と、安田に陳情するが相手にされない。
それで安田を殺し、その場で自殺したのだ。

安田が大富豪であることや、朝日の「志し」が報道されると、青年の犯行を賛美し英雄視する空気が世の中に充満した。殺された安田善次郎や安田家への非難すら出てきたという。

この事件の影響を受けた18歳の中岡艮一という若者が、原敬首相を暗殺するという事件が起こる。中岡艮一は「朝日平吾さんのように賛美を受けたい」と供述した。そして安田善次郎暗殺以降、暗殺などテロを肯定する空気は続きテロの連鎖が起こってしまった。

五・一五事件のときなど、クーデターを起こした軍人たちに国民から同情が集まり、実際大幅に減刑されたくらいだ。

暗殺の犯人は自分の不遇を「政治が悪い・世の中を変える」にすり替え、無名の人間が権力の頂点にいる人間を殺す。

そこには地道な話し合い・議論というものはない。民主主義の根幹は話し合いなのだ。話し合いを無視していきなり殺す。

話し合いは時間がかかるが、暗殺は実に安直だ。

短絡的にしかものを考えられない人間が「俺は正しい、お前は間違っている」と、暴力をふるう。そして安直な暴力は連鎖するのだ。

安田善次郎の暗殺以降の歴史を見て、つくづく暗殺はもちろん、テロや暴力を肯定してはいけない。英雄視や賛美はもってのほかだ。

プロフィール

巨椋修(おぐらおさむ)
作家、漫画家。22歳で漫画家デビュー、35歳で作家デビュー、42歳で映画監督。社会問題、歴史、宗教、政治、経済についての執筆が多い。
2004年、富山大学講師。 2008~2009年、JR東海新幹線女性運転士・車掌の護身術講師。陽明門護身拳法5段。

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