NPB時代の2009年に最優秀防御率のタイトルを獲得した左腕、チェン・ウェイン投手がマリナーズからマイナー契約を解除された。これを受けて、古巣中日の加藤宏幸球団代表が報道陣に囲まれた(6月29日)。チェンの解雇をすでに知らされていたようだったが、獲得については、「普通に考えると…」と言葉を濁した。
「昨年11月、チェンはメジャーの試合出場が前提となる40人枠から外されました。事実上の解雇です。その時、中日は調査をしていたんです。その時点で獲らなかったのだから、今回もないと思いますよ」(中日OBのプロ野球解説者)
NPB事務局の関係者がこう続ける。
「チェンの代理人はスコット・ボラス氏です。ボラス氏は自身の抱える『所属球団未定の選手』や、日本球界が興味を示せば動く可能性の高い選手のリストを持って、各球団に売り込みをしていました。5月から6月上旬の話で、そのリストの中にチェンの名前がありました」
チェンは34歳。まだ老け込む年齢ではない。40人枠を外された昨年11月時点もそうだったが、NPBが獲得に慎重な理由は、主に2つ。一つは16年以降の不振の原因でもある左肘の故障。本当に完治しているのかどうか、疑いの目を向けられているからだ。しかし、それ以上に厄介なのが、チェンの複雑な契約だ。
4年間在籍し、チェンを40人枠から外したマーリンズの地元紙「マイアミ・ヘラルド」が、こんな痛烈な記事を掲載していた。
<チェンが今季、現役選手のメジャー最高給選手となる可能性が出ている>
どういう意味かと言うと、チェンは16年にマーリンズと5年総額8000万ドル(約86億円)の大型契約を結んだ(他に出来高)。しかし、左肘の故障で不振が続き、2019年オフに40人枠から外され、事実上の解雇となった。その5年契約だが、2年目の17年オフに「契約を継続するかどうか?」をチェン自身が判断するオプトアウト権があり、契約続行となった。
そのため、マーリンズは5年契約が終了する2020年までチェンに年俸を払い続ける義務が生じた。つまり、マーリンズは5年契約の最終年である今季も、残りの2200万ドル(約22億6500万円)を支払わなければならないのだ。
「メジャーリーグと選手会は試合数が激減したため、契約した年俸の減額幅を巡って交渉を続けました。チェンは40人に入っていたメジャーリーガーではないので、減額交渉の対象外です。チェンは20年2月にマリナーズとマイナー契約を交わしました。マリナーズからの年俸は約56万ドル。手っ取り早く言えば、チェンは今年、マーリンズとマリナーズの両方から年俸をもらえたんです」(米国人ライター)
チェンと契約したら、このマーリンズとの契約を引き継ぐような事態にならないかという警戒もある。マリナーズがマーリンズとは別に契約を交わした経緯を調べ直さなければならない。中日が獲得に慎重なのは、この辺に理由がありそうだ。
また、チェンは同じ台湾出身でNPBに所属する宋家豪(東北楽天)やチェン・グァンユウ(千葉ロッテ)を自主トレに誘うなどし、可愛がってきた。古巣帰還がダメなら、後輩ルートで売り込みをかけ、「マーリンズからたくさん給料をもらうから、今季の年俸はいらないよ」なんて言うかもしれない。タダなら、獲るか? 左肘が完治しているとすれば、確実に戦力になのだが…。(スポーツライター・飯山満)