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本好きのリビドー

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提供:週刊実話

◎悦楽の1冊「『面白い』のつくりかた」 佐々木健一 新潮新書 760円(本体価格)

★テレビマンが斬新な発想法を伝授

 秒速で何億稼ぐ、とかの社長の自慢本や、何十キロ痩せただの肥っただの程度の話で騒ぐ駄本の類、多くは自己啓発系のその手の代物を電車内で読みふけるサラリーマンや学生くらい、薄みっともない眺めはない。

 せめて人目につかない場所でコソコソ目を通すのが礼儀とかデリカシーってものだろう。その意味で本書など、まさに芸人は本来ならこんな露骨なタイトルだけにMDMAより触れてはいけない。否、人前で持っていては恥ずかしい。だが、職場に向かう地下鉄で、思わず夢中で読破してしまっていたのは著者が著者だけに、だ。

 数多ある国語辞典の中でもトップの売れ行きと人気を誇る『三省堂国語辞典』と『新明解国語辞典』。用例の豊富さが際立つ前者と、言葉の解釈文の独特なおかしさがじわじわ話題を呼び赤瀬川原平のベストセラー『新解さんの謎』を生んだ後者とでそれぞれ持ち味は分かれるが、では、なぜあまりに趣向の異なる2種類の辞書が同じ三省堂から出版されねばならなかったのか? …を追ったノンフィクション『辞書になった男―ケンボー先生と山田先生』(文春文庫)には近頃にない知的興奮を覚えさせられた。その書き手にして、書籍化の元ネタとなったNHKのドキュメンタリー番組を手掛けたディレクターの最新刊とくれば、「面白く」ならないわけがない。

 しかし、惜し気もなく明かされる手の内は至ってごく地味、地道、素朴、遠回りなもの。似たような発想の持ち主だけで固まった会議で決定的なアイデアが湧かないのは当たり前、単純な“無”からは絶対に“有”は生まれないなど、忘れてないフリをして往々に見落としがちな基礎の基礎を確かめ直す指摘が沁みる。どんな仕事の足元も再吟味するきっかけに最適。
_(居島一平/芸人)

【昇天の1冊】

 コロナの影響でクローズアップされているのが、都道府県のトップたる知事の指導力と実行力だろう。世評では北海道、大阪、東京は評価アップ、逆に愛知、兵庫はダウンといわれている。

 全47人の知事の成績表をまとめて読みたいところだが、そんな都合のいい本はない。それならと推薦したいのが『東京都知事列伝 巨大自治体のトップは、何を創り、壊してきたのか』(時事通信社1800円+税)である。初代から数えて全9人、歴代都知事の足跡・素顔を紹介した1冊だ。日本の諸問題や縮図が凝縮した巨大都市と、その首長の実像を知ることができる。

 初代安井誠一郎から現職の小池百合子まで9人。2代目までは時代の要請に応じてインフラ整備が主な政策だったが、美濃部亮吉は福祉と公害・防災対策を推進する。石原慎太郎のディーゼル車排ガス規制や銀行創設、そして猪瀬直樹、舛添要一の失態と退陣、小池百合子の劇場型パフォーマンスは記憶に新しい。

 歴代の知事がコロナに対峙したら、どんな施策をとっただろうか? 青島幸男は何もできなかったのではないか? 石原慎太郎は、もっと強権的ではなかったか? 小池百合子は本当に評価に値するのか? など、一考すべきことが山ほどある。

 同書を読み、来たるべき都知事選に備え、知事の在り方を再考したい。次期都知事はコロナ収束後に予定されている東京五輪の“顔”なのだから、慎重を要する。著者は元副都知事の青山佾(やすし)氏。
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)

【話題の1冊】著者インタビュー 上出遼平
『ハイパーハードボイルドグルメリポート』朝日新聞出版 1,800円(本体価格)

★本当にヤバい世界を見せる番組を創りたかった

――2017年に放送されるや、瞬く間に大人気となった『ハイパーハードボイルドグルメリポート』ですが、番組を始めるきっかけは何だったのですか?
上出 一時期“ヤバい”場所のロケを売りにする番組がいくつかありました。けれど、テレビを創っている自分には、その“マヤカシ”が手に取るように分かります。だから、タレントはもちろん、普通のテレビクルーでも立ち入れない“本当にヤバい”世界を見せる番組を創ろうと思いました。

――ヤバい奴、ヤバい飯が続々と登場します。命の危険にさらされるようなことはなかったのですか?
上出 スラム街で強盗に待ち伏せされたり、囲まれてナタを振り回されたり、それどころか(普段は1人でロケしているのに)たまたま何人かのチームになったところで、ロケ隊丸ごと銃を突きつけられて身ぐるみ剥がされたこともありました。特に命の危険はありませんでしたが、台湾マフィアの組長たちと飯を食った時の、あの独特の緊張感が最も死の匂いに近かったのかもしれません。

――他に印象に残っている出来事はありますか?
上出 アフリカの小国、リベリアでのことでした。この国ではつい数年前まで、血で血を洗う内戦が繰り返されていました。少年少女は拉致され、カミソリで切った傷にコカインを擦り込まれ、銃を持たされると、少年兵として殺し合いの最前線に投じられました。そして、殺した相手の肉や心臓を食っていたんです…。
 内戦終結後、少年兵たちは首都に点在する廃墟に暮らしていました。廃墟の中でも、警察でさえ近付けないのが“国営墓地”でした。墓の一つ一つに元兵士たちが住み着き、強盗を生業として生きているといいます。紛れもなくそこは“リベリアでもっともヤバい場所”でした。だから、僕はそこへ行ったんです。案の定、あっという間に包囲され、カメラやポケットの中の物を奪い取られました。それでも中へ進んでいった先で、1人の女性と出会ったのです。
 ラフテーという名のその女性は、武器を捨ててから娼婦として生きていました。夜な夜な性を売り、コカインを吸って、人骨の残る墓の中で眠るのです。僕は彼女が客を取る瞬間や、稼いだ金で食う飯の瞬間を共にしました。そこで、彼女が口にした言葉を、僕は忘れることができません。僕の人生は彼女との出会いで変わりました。

――今後、やっていきたいことはありますか?
上出 番組の形が固まってきてしまっているので、一度壊したいと思っています。
_(聞き手/程原ケン)

上出遼平(かみで・りょうへい)
テレビディレクター・プロデューサー。1989年東京生まれ。早稲田大学卒業後、’11年株式会社テレビ東京に入社。『ハイパーハードボイルドグルメリポート』シリーズの企画・演出。企画・ロケ・撮影・編集まで番組制作の全過程を担う。空いた時間は山歩き。

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