ヤマダ電機といえば家電量販店の「ガリバー」といわれて久しい。その会社が問題企業を意味する“ブラック企業”とは穏やかではない。一体、これは何を意味するのか。
その前に“物言う株主”について説明する必要があるだろう。1月23日(金)の大引け後、ヤマダ電機は関東財務局に提出された大量保有報告書により、シンガポールに本拠地を置く『エフィッシモ・キャピタル・マネージメント』の保有比率が従来の9.73%から16.63%に増加したと発表した。むろん、断トツの筆頭株主だ。
エフィッシモは9年前の“ニッポン放送株買い占め事件”などで一世を風靡した『村上ファンド』の関係者が設立した投資ファンド。これまでも“御大”である村上世彰氏譲りの荒業を駆使して標的企業に揺さぶりをかけ、その間に株を売り抜けるなどの手法で巨額の利益を上げてきた。その村上ファンドの“残党”がヤマダ電機にピタリ照準を定め、一気に株を買い増して存在感をアピールしたのだから不気味である。
「通常、標的にされた企業は動揺していると見透かされたくないため、相手の買い増しなど事実関係を発表しません。しかしヤマダ電機は違った。これでエフィッシモは内心、シメシメと思っているはずです」(市場関係者)
ところが願ってもない“チョーチン買い”の好機にもかかわらず、市場の反応は予想外に鈍い。週明けの26日(月)、終値は先週末比23円高の421円。翌27日(火)も前日比5円高の426円だった。確かに商いの絶対量は膨らんでいるが、値動きは極めて限定的だ。前出の市場関係者が苦笑する。
「強面ファンドが買い出動すれば、やがて大相場に発展する。その期待から個人投資家が殺到し、株価がフィーバーするのが一般的ですが、今回は意外なほどクール。今後の展開はわかりませんが、投資家がさめた目でヤマダ電機を観ている証拠かも知れません」
そこで気になるのが、前述したネットの掲示板に記された「ブラック企業」の言葉である。実はヤマダ電機、大手メディアがこぞって“黙殺”したことから世間の注目度は低かったが、昨年の「ブラック企業大賞2014」に選定されている。これは労働相談に関わる弁護士や市民団体、労働組合幹部などで組織するブラック企業実行委員会が、長時間労働など深刻な問題を抱える企業・団体11を大賞候補にノミネートし、その中からウェブ投票も踏まえて「大賞」を選ぶ仕組み。深夜の1人勤務、いわゆる“ワンオペ”で物議を醸した牛丼チェーン『すき家』のゼンショーHDなど、そうそうたる問題企業を押しのけ、栄えある大賞に“輝いた”のがヤマダ電機だった。
聞き捨てならないのがその理由。実行委員会の水島宏明・法政大学教授が「ヤマダ電機はウェブ投票でも最多の投票を集めた。過労自殺を繰り返している点や反省の色が見られないことなどを勘案して総合的に選んだ」と語ったように、ヤマダ電機の労働環境の悪化ぶりは際立っていたようだ。しかも同社は部門賞のうち、ウェブ投票最多企業に贈られる「ウェブ投票賞」との“ダブル受賞”に輝くオマケまで受けた。
この強烈な皮肉を込めたブラック・ジョークと矛盾するようだが、ヤマダ電機は昨年、一昨年とメディアフラッグなる市場調査の覆面調査の結果、2年連続で家電量販店部門の「総合顧客満足度ナンバーワン」に選ばれている(調査は一昨年から実施)。情け容赦ないブラック企業の烙印を押された同社とすれば、劣悪なイメージを一掃して余りある大勲章である。
ところが、これと好対照なのが『日経ビジネス』(日経BP社)のアフターサービスランキングだ。同誌がランキング項目に「家電量販店」を設けたのは2007年のことだが、ヤマダ電機は昨年まで一貫して最下位が指定席になっている。このランキングを不満とするヤマダ電機は日経BPを提訴したものの「調査には恣意的な結果が生じるような事情はなかった」として請求が却下されている。だからこそ“救いの神”のように登場したメディアフラッグの高評価に違和感を抱く関係者は少なくない。
「今年3月決算を下方修正したように、今やヤマダ電機は業績が大きく低迷している。裏を返せばエフィッシモは攻め立てる材料に事欠かない。早くも先の6月総会が、会社の命運を握る天王山となりそうです」(大手証券マン)
業績不振から全役員を降格させ、2年前に指揮官に復帰した山田昇社長の正念場である。