「安定した状態の冠動脈疾患で検討した米国の5つの大規模試験では、カテーテル(医療用に用いられる中空の柔らかい管のこと)についている風船で、冠動脈の狭まっている部分を広げる治療法(血管形成術、PTCA)や広がった部分を維持するために金属製の網を挿入する方法(冠動脈ステント留置術)、さらには冠動脈バイパス術などの効果は、例外を除いて薬物療法や運動療法をした場合と比べ、生存率や生活の質の完全度は変わらないことが立証されました。そして、それによってアメリカ医療保険のメディケアのコストは16億ドルも節約できるようになった。また、アメリカでは冠動脈のアテロームと呼ばれる脂肪性の沈着物は、血管内膜の感染で起きることがわかっている。それらの感染菌へのワクチンが開発され、間もなく世に出ることでしょう。そうすれば、血栓症への画期的な予防になります」(田村氏)
いやはや、我々は検査や治療は絶対に必要なものだと思い込み、「病院で検査と治療を受けていれば安心」と考えていたが、そうでもないようだ。
だからこそ「先生、その検査は本当に私に必要なのでしょうか」と患者が聞くことが大切、と田村氏は指摘する。
最初に取り上げた定期健康診断の意義にも疑問がある。
実は健康診断で実施されている代表的な24の検査項目のうち、肝機能検査や心電図測定などの16項目は、病気の予防や死者の減少という視点から見ると、有効性を示す根拠が薄いという。
実際、それらの評価結果を厚生労働省の『最新の科学的知見に基づいた保険事業に係る調査研究』(班長・福井次矢聖路加国際病院長)がまとめている。
その結果、「血圧の測定」や「飲酒」「喫煙」の問診は効果を示す十分な証拠となる。「身長、体重の測定」は減量指導を充実すれば有効。糖尿病検査の「糖負荷試験」、「うつ病を調べる問診」は検診後の指導や治療の体制整備を条件に有効と評価された。
しかし、有効とされたのは以上の6項目だけで、「C型肝炎」「B型肝炎」は判定保留。それ以外の16項目の検査に至っては「勧めるだけの根拠はない」「病気予防や悪化防止の根拠はない」などと判断されたのである。
「GOTとGPT、γGPTの値を調べる肝機能検査で、見つけるべき病気の一つは脂肪肝です。だが、この大半は放置しても大事に至らない。ほかに見つけるべきものは、アルコール性の肝臓病とウイルス性肝炎ですが、どちらも見落とされる場合が多い。したがって、検査するなら飲酒量の問診や直接のウイルス検査の方が勝る。そこで研究斑は『実施の意義を再検討する必要がある』と結論づけたのです」
検査と治療は絶対だと思っていた我々には「目から鱗が落ちる」思いである。