すっきりと晴れ上がった高い空を見ながら、矢作調教師は「何も注文をつけることはない」とつぶやいた。
スーパーホーネットが素晴らしい状態に仕上がった。前走の毎日王冠ではのちに秋の天皇賞馬に輝いたウオッカを差し切った。その後は天皇賞に進む選択肢もあったが、見向きもせず、マイルCS一本に絞ってきた。その熱意が馬に注入されたかのようだ。光る毛ヅヤ、実際の馬体重以上に体を大きく見せている。
「ウオッカとあれだけの激闘をしたわけだけど、反動はまったくない。元気いっぱいだね」と師はうなずいた。
13日に栗東坂路で行われた1週前追い切りは800メートル51秒4→38秒2→13秒1と動いた。しかも、その前に69秒4で体を温めた後だけに、中身も実にハードだ。
「道中、少し行きたがったのに最後まで踏ん張ってくれた。本当にタフになったね」
以前は東京への輸送で体調を崩したり、繊細な面もあった。しかし、今は「年齢を重ねるに従って充実してきた。美浦に滞在したり、高松宮記念で千二を走ったり、いろんな厳しい経験の積み重ねが生きているんだろう」とトレーナーは成長を感じ取っている。
GIは朝日FSと昨年のマイルCSで2着が2度ある。GI奪取は馬にとっても、そして厩舎にとっても悲願といっていい。だからこそ、勝つ可能性のより高いこのレースにかけてきた。
春の安田記念で完敗したウオッカを負かしたのも大きな自信になっている。「安田記念は馬をかわいがりすぎたオレの失敗だった。今はカイバ食いに不安がないから、しっかり攻められる」と、現役最強馬を底力でねじ伏せたと言いたげだ。
「ここも強い相手が2頭(カンパニーとブルーメンブラット)いるけど、自分の競馬さえできれば大丈夫だと思っている」
派手さはない。しかし地道に勝ち星を重ねてきた努力の馬が、自身の10勝目とともに最強マイラーへ上り詰める。
【最終追いVTR】小林慎騎手を背に、DWコースで併せ馬。前半はセーブし、直線に入ってからビッシリ追われた。頭の高さは相変わらずだが、追い出してからの走りは豪快。最後は力強く3馬身先着でGI仕様の体に仕上がった。