■プラス要素1=「契約最終年の踏ん張り」に期待
岩隈はマリナーズとの契約が今季で終わるため、オフにチームを出てFAになった場合、金満球団(ドジャース、ヤンキース、レッドソックス、エンジェルス等)の間で争奪戦になることが予想される。岩隈はメジャーの先発投手の中で最も安定感のある投手の一人と見なされており、日本で考えられている以上に評価が高い。特にレッドソックスは岩隈に強い興味を示していて、昨年末にエースに据える目的でマ軍に右の主砲セスペデスとの交換トレードを申し入れたほどだ。今オフ、岩隈がFAになれば、大金を積んで獲得に動く可能性が高い。
岩隈の場合、年齢がすでに34歳であること、故障リスクあることなどを考えればFAになっても5年以上の契約をゲットするのは難しいだろう。しかし今季、故障せずローテ通りに登板して防御率3・00前後の数字を出せば4年8千万(96億円)〜9千万ドル(108億円)規模の契約をゲットすることは十分可能だ。岩隈本人もそのことはよくわかっているので、それが高いモチベーションを生みだす原動力になる。
■プラス要素2=「チームの得点力」が大幅アップ
昨年まで岩隈はマリナーズ打線の貧打に泣かされ、好投しても見殺しにされるケースが多々あった。しかし今季は違う。マ軍はオフに大掛かりな補強を行い、昨年の本塁打王ネルソン・クルーズを獲得。さらにセス・スミス、ルジアーノ、ウィークスといった一発のある打者の獲得にも成功し得点力が格段にアップした。そのため岩隈は6回ないし7回を3点以内に抑えておけば、高い確率で勝ち星が付く可能性が高い。一昨年のようにフルシーズン登板してQS(6回以上を3点以内)を23マークできれば18勝以上も夢ではない。
■プラス要素3=「内野の守備力」は最強レベル
マリナーズは若い内野手の守備力が大幅にアップ。サードのカイル・シーガーは昨年初めてゴールドグラブ賞を獲得した。ファーストのモリソン、ショートのミラーもハイレベルな守備力を備えている。セカンドにはゴールドグラブ賞を2度獲得したカノーが控えている。そのためマ軍の守備力は急速に向上し、昨季は内野のエラー数がリーグ最少だった。今季もレギュラー陣の顔ぶれは昨年と同じで内野の守備力はトップレベルと評価されている。これはグラウンドボール・ピッチャー(打球がゴロになる比率の高い投手)である岩隈にとって大きな助けになる。トップレベルの守備力を備えた内野陣をバックに投げることができればエラーがらみの失点が減るだけでなく、ピンチをダブルプレーで切り抜けるケースも多くなる。メリットは二重三重にあるのだ。
■プラス要素4=プレッシャーの少ない「第2エース」
もう一つ見逃せない要素はマリナーズには大エース、フェリックス・ヘルナンデスがいるため、岩隈はプレッシャーが掛からない第2エースという立場で投げられることだ。地方都市のチームの第2エースという立場はメンタル面では最高の環境と言っていい。
このように今季、岩隈にはプラス要素がいくつもある。しかも、今季はチームのムードも最高。マ軍は'02年以降一度もプレーオフに進出していないが、今季は打線が大幅にレベルアップしたため、メディアの多くはア・リーグ西地区の優勝候補の本命に挙げておりチームにはイケイケムードが漂っている。これも岩隈にとって追い風になるだろう。
一方で、リスク要因もある。最大のものは、なんといっても肩の故障の再発だ。
岩隈は'10年のオフに楽天を出てポスティングでメジャー入りを目指した。このときはアスレチックスがポスティング金1910万ドル(23億円)のほか、岩隈に4年分の年俸1525万ドル(18億3千万円)を提示したが、代理人の要求額が高すぎて契約には至らなかった。そこで楽天に残留し翌年再度メジャーにチャレンジすることにしたが、翌'11年の5月に肩を痛めたため商品価値が暴落。マリナーズと1年150万ドルで契約する羽目になった。
今季もシーズン中に肩を痛めてDL入りすれば商品価値が暴落し、複数年契約は望めなくなる。それだけは何が何でも避けなくてはいけない。
スポーツジャーナリスト・友成那智
ともなり・なち 今はなきPLAYBOY日本版のスポーツ担当として、日本で活躍する元大リーガーらと交流。アメリカ野球に造詣が深く、現在は各媒体に大リーグ関連の記事を寄稿。'04年から毎年執筆している「完全メジャーリーグ選手名鑑」(廣済堂出版)は日本人大リーガーにも愛読者が多い。