今の世間は何でも短く、早く(速く)がトレンドだ。試合時間の長いプロ野球離れに歯止めがきかず、お笑い番組はひとネタ1分が基本形になっている。もちろん競馬もスピード化が目覚ましく、名勝負といわれる先日の天皇賞・秋もマイルに強い馬が上位を独占した。そんな流れにあって、このレースは実に特異な存在といっていい。
なかでも、インターフラッグ=写真=が勝った1998年は、速さと対極にあるようなレースだった。
最初にスタンドがわいたのはちょっとしたハプニングが原因だった。ハナを切ったキープザフィールド騎乗の橋本広騎手が、あと1周を残したゴール前でムチを入れたのだ。ウワッ、ゴール誤認か!? しかし真実は、馬が止まりそうになったため気合を入れ直したとのこと。
確かに馬が走るのをやめてもいいのかと勘違いするほど、ペースは遅かった。道中のラップは15秒台が2度、14秒台が3度。重馬場の影響もあり、まるで調教のようなのんびりした流れだった。
そんな難しいレースをインターフラッグは後方でじっくり構えた。鞍上は岡部騎手。いわずと知れた名手だが、特に長丁場の手綱さばきは絶品だった。その真骨頂はこのステイヤーズS。何と7度も制している。
残り5Fを切って一気にペースアップ。12秒台を刻み出した。それを待ちかねたようにフラッグは一気にスパート。1番人気のアラバンサをハナ差退け、3番人気での重賞初Vとなった。勝ち時計の3分58秒8は、その5年前にエアダブリンがマークしたレースレコードから何と17秒2も遅い。ちなみにダブリンの鞍上も岡部だった。
フラッグの父はステイヤーズS連覇のスルーオダイナ(これも岡部)を輩出したノーザンテースト。母ナショナルフラッグも長距離で活躍した。420キロ台のやせっぽちの馬体はまったく目立たなかったが、一方で脚元への負担は少なく、まるで長い距離を走るために生まれてきたような馬だった。丈夫な馬で8歳からは地方の東北、九州と渡り歩き10歳まで現役を続けた。