日本でも神話の八岐大蛇はじめ、巨大な龍の伝説が多く残っている。日本の場合は荒れ狂う天候や氾濫した河川の様子など、人には手出しができない自然や災害を象徴する、神に近い存在として龍を想像したとみられている。
西洋のドラゴンの方も、蛇に対する神格化とキリスト教のモチーフが加わり、次第に人に仇なす悪の存在であるとみなされるようになり、人が超えるべき壁や強さの象徴とされるようになったとみられている。
西洋のドラゴンの歴史を紐解いていくと、実在したとしか思えない程しっかりとした記録が残っているものが存在する。例えばイングランド地方サフォークとエセックスの境にあるスタウア川流域に伝わるビュレス・ドラゴンは1405年に僧侶によって退治されたのだが、胴が太く頭に鬣があり、ノコギリのような歯と長い尾を持っていたという。どことなく日本の龍に似た印象も受ける。また1668年に退治されたエセックスのヘンハム・ドラゴンは体長2.4〜2.7m、鱗に覆われたゴツゴツした肌に大きな目に三叉の尾をしていたという。
まるで本当にドラゴンとしか思えない生物が存在し、記録に残したかのようだが、実際にこれらのドラゴンにはモデルがいたのではないか、とする説が存在する。インドネシアのコモドオオトカゲを始めとする、実在する大トカゲ類だ。特にコモドオオトカゲの場合は口内に毒腺があるだけでなく、化膿菌が繁殖しているため、噛まれたりした際の被害は甚大なものとなる。力が強く、人に甚大な危害を加える可能性のある大トカゲ類の目撃証言が伝わったとしたら? また、今は絶滅してしまったけれども、伝説の残る地に本物の大トカゲ類が生息していたのかもしれない。同様の説を著名な生物学者のリチャード・ドーキンス氏も述べている。
現在、山口敏太郎の妖怪博物館では、このドラゴンのモデルになったオオトカゲの剥製を展示している。伝説のモデルに近づいて観察してみるのも面白いのではないだろうか。
文:和田大輔 取材:山口敏太郎事務所