今季の岩隈は味方の得点援護がなかったこともあり、1勝も挙げられないまま5月12日に「右肩の炎症」を理由に故障者リストに入った。その後、6月下旬の復帰を目指してリハビリに励んだが、5月下旬に痛みがぶり返し、復帰を急ぎ過ぎているのではないかという懸念が広がった。それでも6月下旬の復帰にこだわる岩隈は、数日肩を休めただけで投球練習を再開。紅白戦で安定した投球を見せたため「マイナーで2試合投げた後、6月24日か25日にメジャー復帰」というタイムテーブルが設定された。
マイナーでの最初の登板はレベルの低い1Aでの試合だったため、岩隈はスプリッターとスライダーを多投して4回を1安打無失点に抑える好投を見せた。これに気をよくしたマ軍首脳は3Aで1試合投げさせた後、6月25日(日曜日)に引き上げて、その日のゲームに先発させることにした。
しかし、3Aでの登板(19日)で岩隈は全球種の制球に苦しみ、初回にソロアーチを打たれて1失点。2回には四球を2つ出したのが致命傷になり3失点し、2回を投げただけで降板した。
さらにゲーム後、肩に痛みが走る中で投げていたことが判明。6日後に予定されていたメジャー復帰は無期限延期になった。
このような事態になったのは、岩隈が6月下旬の復帰に強いこだわりを持っていたため、肩の炎症が治り切っていないうちに復帰に向けたピッチングを始めたからだ。
その心情は痛いほど理解できる。岩隈がマリナーズと交わした契約には、「'16年と'17年の2年間で324イニング以上投げると、'18年は自動的に年俸1500万ドル(16.5億円)で契約する」という条項がある。昨年、岩隈は199イニング投げているので、今季125イニング投げた時点で契約更新となる。しかし、5月中に31イニングを投げただけで故障者リストに入ったため、今季中に125イニングに届くには6月下旬に復帰する必要があったのだ。
その6月下旬の復帰が流れたため、「2018年に年俸16.5億円でプレーする」ことは絶望的になった。ならば今後、岩隈はどうなるのだろうか? 考えられるシナリオは次の4つだ。
シナリオ(1):シーズン終了後、FAになって他球団と契約
岩隈が8月半ばまでに復帰し、シーズン終了まで先発で防御率4.00レベルのピッチングを見せた場合、ローテの若返りを図っているマリナーズのディポートGMは岩隈との契約更新を見送るだろう。そうなると岩隈はFAとなって他球団と契約することになる。先発のコマが足りないオリオールズ、エンジェルス、ツインズ、ジャイアンツ、カブスなどが1年700〜800万ドルのオファーを出して獲得しようとすると予想される。岩隈は来年4月に37歳になるので年齢がネックになり、複数年契約をオファーするところはないだろう。
今オフのFA市場は、先発投手のいい出物が少ない。3球団くらいの競合になれば1年1000万ドルくらいまで金額が上がる可能性もある。
岩隈は2013年にア・リーグのサイヤング賞選考で3人の最終候補に残った実績があり、制球力に関してはメジャー屈指のレベルという評価が定まっている。肩の故障リスクが高いというネックはあるが、故障がなければ、悪くても2ケタの勝ち星と4.00前後の防御率は期待できるので、先発の4番手にうってつけだと考えるチームは少なくないはずだ。
シナリオ(2):年俸500〜800万ドルの1年契約でマリナーズに残留
岩隈がシーズン後半の早い時期に復帰して、シーズン終了まで安定した防御率3点台後半のピッチングを見せ、なおかつシーズン後半、マリナーズの若手の先発投手たちが伸び悩んだ場合、ディポートGMは岩隈に1年500〜800万ドルのオファーを出し、引き留めにかかるだろう。岩隈は自宅がシアトルにあるので、オファーされた金額が相場より低くても、残留を選択する可能性が高い。
シナリオ(3):8月末までにトレードで優勝を争うチームに移籍
岩隈の肩の故障が7月半ばまでに回復し、ローテに復帰して3点台前半のピッチングを見せた場合、ポストシーズン進出の望みが消えたマリナーズは、8月末までに優勝を争うチームに岩隈をトレードし、見返りにマイナーの有望投手を獲得する可能性がある。8月末までにトレードされた選手はポストシーズンでプレーできるので、岩隈に思わぬビッグチャンスが訪れるかもしれない。
シナリオ(4):日本球界復帰か引退
肩の痛みが取れず、シーズン中に一度も復帰できなかった場合は、メジャー契約をオファーしてくる球団が現れない可能性もある。そうなると、気長に痛みが取れるまで待ってくれる日本のチームと契約するのが最善の策になる。だが、肩の炎症の状態が、いつまでも改善されない場合は引退を選択する可能性もある。
スポーツジャーナリスト・友成那智(ともなり・なち)
今はなきPLAYBOY日本版のスポーツ担当として、日本で活躍する元大リーガーらと交流。アメリカ野球に造詣が深く、現在は大リーグ関連の記事を各媒体に寄稿。日本人大リーガーにも愛読者が多い「メジャーリーグ選手名鑑2017」(廣済堂出版)が発売中。