「現行では、焼酎の製造免許取得条件のひとつに年間720ミリリットル瓶で1万4000本前後の製造能力が求められている。これに東京都からは、御蔵島や桧原村などを念頭に規制緩和を求める声が出ていた。そこに小池百合子東京都知事が就任。観光客誘致と地場産業活性化のため、国も動き始めた次第です」(霞ヶ関関係者)
御蔵島村では、伊豆諸島に自生するサトイモ科の「シマテンナンショウ」という植物の球根を利用して醸造する『へんごっこ』という珍しい焼酎が試験醸造されていた。桧原村では『じゃがいも焼酎』があり、村内外の酒店などで販売中だ。
「『へんごっこ』は現状、従来の焼酎製造免許を得る規模は原材料的にも人的にも無理。製造免許資格を少量製造に緩和していただきたい。御蔵島はイルカウオッチングで最近、外国人も含め観光客が微増している。この自然と焼酎が村おこしにつながればということです」(御蔵島役場関係者)
続けて、桧原村の「村づくり推進係」担当者も言う。
「『じゃがいも焼酎』は、村原産じゃがいもを利用していますが、焼酎製造は村外業者に委託しています。これを規制緩和で少量製造を可能にしていただき、村内製造できる態勢にしたいのです。そうすれば、じゃがいも栽培生産者も増え、村の産業振興に役立つと思っています」
東京都が特区候補としてもう一つ、プッシュしているのが、伊豆諸島の青ヶ島村にある『あおちゅう』の原酒を売り出す案だ。
「青ヶ島の青ヶ島酒造合資会社では、すでに青ヶ島産さつまいもで『青酎』を製造、販売している。これをNHKやソムリエが紹介したこともあって手に入りにくくなり“幻の焼酎”とも言われている。この流れから、今度は特区指定で度数60度の原酒販売にこぎつけたいのです」(東京都関係者)
今のところ政府が焼酎特区として認可するのは、東京都の伊豆諸島の一部の村、奥多摩の一部地域などのようだ。
その表向きの狙いはあくまで地方創生。しかし、ある経済産業省官僚は、「規制緩和で製造許認可を幅広く与え、税収をアップしたいというのが最大の目的」と言う。
「明治時代、酒税は税収の3分の1とも言われた時期があったほど大事な税収源だったのです。しかし今は景気低迷、人口減、さらには若者の酒離れなどの三重苦で、酒関連税収は年々下がるばかり。バブル時、'88年の税収全体が52兆1938億円、うち酒税収入は2兆2021億円(国税庁データ)あった。それが、2015年時で税収60兆1872億円のうち酒税収入は1兆3080億円。これをどうアップできるのか。そこで目を付けられたのが焼酎なのでは」(同)
日本酒は1970年代167万キロリットルの消費があったが、'14年にはほぼ3分の1に落ち込んでいる。一方のビールは、酒税全体からすると44.9%('14年)で5957億円と半数近くを占めているものの、消費数量構成比較では71%('89年)から31.2%('14年)と半数以下に落ちている。その点、焼酎は逆。消費数量構成比較で'89年には5.8%だったのが2014年には10.4%と増加しているのだ。
「'14年の国税データでは清酒の税収は636億で全体のわずか4.8%。好調と言われるウイスキーでも421億で3.2%。発泡酒は1054億円で約7.9%。そこへ行くと焼酎は2101億円で、全体税収の15.8%と、ビールに次いで額も比率も多い」(同)
加えて見逃せないのは、税率の高さだという。ビールの酒税は1リットル220円。これに続いて高いのは21度未満の焼酎が1リットル200円。日本酒は1リットル120円、ワインが80円だから、ビールと焼酎の高さは突出している。もちろん37度未満のウイスキーやブランデーが1リットル370円と最も高いが全体消費量は微々たる量だ。
「落ち込む酒税を少しでも税収アップにつなげるには、ビールの中で税率が低く消費が伸びている発泡酒と、税率の高い焼酎の消費をアップさせること。東京都を中心に特区で成功すれば、全国に広げ、爆発的に売り上げも税収も伸びる」(経済記者)
もっとも、われわれ消費者にすれば免許が緩和されることで競争が生まれ、美味い焼酎を安価で飲めるなら大歓迎。さらに地域産業の活生化につながるなら万々歳だろう。
しかし、一方で懸念もある。
「特区に様々な人たちや業者が乱入し、本来は庶民のための酒である焼酎が1本何万円にも吊り上がる可能性もある」(焼酎愛好家)
邪道とならないことを祈りたい。