新入団の投手に故障者が続出し、神経質になっていたド軍のチームドクターが、岩隈のヒジに厳しい見立てをしたため、結果的にマリナーズは岩隈と再契約することができたが、後味の悪い出来事だった。
そのモヤモヤを吹っ切るべく、今季、岩隈は張り切ってキャンプインしたが、オープン戦は不調で防御率は6.00だった。公式戦に入ってもボールのキレは悪くないのに2度先発して0勝1敗、防御率4.09という冴えない成績になっている。
最大の要因は、最良の女房役を相手に投げられないことだ。
表(※本誌参照)をご覧いただければ分かるように岩隈は昨年まで第2捕手だったヘスース・スークレと抜群に相性がよく、バッテリーを組むとたいてい好投していた。通算のバッテリー防御率が1.55ということは、スークレとバッテリーを組んだ試合では平均6回を1点に抑えていることになる。昨年8月12日にオリオールズの強力打線を相手にノーヒットノーランを達成したときもスークレが女房役だった。
その一方で岩隈は昨年まで正捕手だったマイク・ズニーノとは相性が悪く、昨年は6.02というバッテリー防御率だった。これは6回まで投げた場合、平均4点取られたことを意味する。
女房役によってこれほど大きな差が出るのは、岩隈が様々な能力を身につけた技巧派で、捕手側も岩隈の特徴を理解しツボを心得たリードが要求されるからだ。
岩隈の最大の長所は制球力だが、もうひとつはボール球を振らせる技術が高いことだ。ホームプレート手前でストンとボールゾーンに落ちていくスプリッターにバットを出させるには、その前に高目に速球系(ツーシーム、ストレート)を投げ込んで目線を上げておく必要がある。それと同様にホームプレート手前で外側に切れていくスライダーにバットを出させるには、その前にインサイドに投げ込んでおく必要がある。
当然、打者の方も、基本的にそのような攻め方で来ることはある程度計算しているので、賢い捕手は打者の様子を伺いながら、逆の攻め方を岩隈に要求することもある。スークレは、逆を突くことが上手く、スプリッターやスライダーが来そうなカウントで、岩隈にズドンと速球系を高目に投げ込ませて三振に取るケースが多かった。
スークレはさらに名うての強肩で盗塁阻止率が抜群に高く(阻止率43%)、捕手牽制で一塁走者を刺す能力も高い。ボールブロッキングも上手いので、ワンバウンドになるスプリッターを多投する岩隈には大きな助けになっていた。
これほど相性がいい第2捕手がいると、メジャーではその投手が先発するときは必ず受けるパーソナル・キャッチャーにしてしまうことが多いが、スークレは今季、岩隈の女房役にはなれなかった。昨季の打率は1割5分7厘で、バッティングがひど過ぎたからだ。
岩隈にとってつらいのは、今季、この最良の女房役とバッテリーを組めない可能性が高くなったことだ。
マリナーズのディポート新GMはオフに、お気に入りのベテラン、アイアネッタとバッティングのいい捕手クレベンジャーを獲得して正捕手と第2捕手に据えた。そのため昨年までの正・副捕手コンビ、ズニーノとスークレは3Aに追いやられる形になった。
ただ、この人事は早くも破たんの兆しを見せ始めている。アイアネッタ、クレベンジャーともリード面でのミスが多く、チームが勝てない要因の一つになっているからだ。
アイアネッタは打撃面で活躍しているので、すぐにマイナー落ちする可能性はないが、クレベンジャーは開幕からヒットがなく、マイナー落ちする可能性は大いにある。
そうなれば本来ならスークレが昇格して岩隈の投球を受けることになるのだが、開幕直前の4月3日、スークレは1月に骨折した腓骨を修復する手術を受けることになり今季中の復帰が絶望的になっている。そのため、岩隈は今季、スークレ以外の捕手を相手に投げないといけなくなった。
表(※本誌参照)にあるように、岩隈はリード力の低い捕手たちを相手に投げると活躍できない傾向がある。球団がスークレに代わるリードの上手い捕手を獲得してくれればいいが、現在使われている2人の捕手は、新GMが真っ先に獲得した選手なのでそれも期待薄だ。
この苦しい状況を岩隈がどう克服していくか、注目したい。
ともなり・なち 今はなきPLAYBOY日本版のスポーツ担当として、日本で活躍する元大リーガーらと交流。アメリカ野球に造詣が深く、現在は大リーグ関連の記事を各媒体に寄稿。日本人大リーガーにも愛読者が多い「メジャーリーグ選手名鑑2016」(廣済堂出版)が発売中。