「他人の不幸は我が身の幸せ」。勝負の世界では言い古された言葉だが、最有力候補のスリープレスナイトが故障(右前浅屈腱炎)でリタイア。各陣営はチャンスに色めき立った。
しかし、アルティマトゥーレ陣営は事情が違う。「残念だね。もう一度、負かしてやりたかった」と三浦厩務員はライバルの早すぎる引退を惜しんだ。
前哨戦のセントウルSは、王者スリープレスナイトに決定的な0秒4差をつけて圧勝。底知れぬパワーを見せつけている。相手に休み明けのハンデがあったため、本番も勝って名実ともに最強スプリンターの称号を手にしたかった。これが陣営の本音だ。
セントウルSで、こんなエピソードがあった。阪神競馬場の出張厩舎に到着するやいなや、「すぐにゴロンと横になって寝てしまった。周りの騒音はまったくお構いなし。あれには驚いたよ」と、担当の三浦厩務員は牝馬らしからぬずぶとさに感心しきり。
「春とは別馬のような落ち着きが出てきたし、寝姿を見ていて勝てると思った。松岡(騎手)も上手に乗ってくれたけどね」
中間も順調そのもの。速い時計こそ出していないが、連日、コースで元気いっぱいの動きを見せている。「夏に使っていた馬だし、短期放牧明けだった前走でも体はできていた。もう強くやる必要はないからね。疲れも取れて、いい雰囲気だよ」と奥平調教師は体調面に太鼓判を押す。
母エアトゥーレは、阪神牝馬Sなど6勝を挙げ、モーリス・ド・ゲスト賞(仏GI)で2着した名牝。ひとつ下の半弟は昨年の皐月賞馬キャプテントゥーレ。朝日CC(1着)で復権を果たし、天皇賞・秋の有力候補にあげられている。
1200メートルはセントウルSを含め5戦4勝、2着1回と連対率10割を誇る。馬も完成の域に達し、今が円熟期。チャンスは限りなく高い。
「心配があれば道悪だけ。運を天に任す心境だけど、稍重までなら期待してもらっていい」と三浦さんは力強く締めくくった。
【最終追いVTR】高橋智騎手を背に終始、マイペースの調整。Wコースで5F66秒7→51秒8→37秒9→12秒9を馬なりでマークした。遠征帰りの中2週も、馬体は細くなった印象はない。バネの利いたリズミカルな動きから、調子の良さは一目瞭然だ。