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森永卓郎の「経済“千夜一夜”物語」 シャープを救えない情けなさ

 2月5日、台湾の鴻海精密工業の郭台銘会長が、総額7000億円でシャープを買収する提案について「優先交渉権を得た。2月中に最終契約する」、「鴻海の創業から42年間の経験を生かし、シャープを新たな創業として、再生したい」と記者に述べた。一方、シャープは「優先交渉権を与えたという事実はない」と否定しており、事態は流動的だが、鴻海の優位は揺るがない情勢だ。

 シャープに対しては、官民ファンドの産業革新機構も再建案を提案している。当初は、技術流出を恐れる政府も機構による再建を後押ししており、シャープもそれを望んでいると言われていたが、なぜ逆転を許したのか。私は、二つの理由があったとみている。
 一つは、買収金額だ。鴻海は、最終的に7000億円を提示したが、機構の提示額は3000億円だった。もう一つは、機構が役員の退任と従業員のリストラを求めたのに対して、鴻海は役員の残留と40歳以下の社員の雇用確保、さらには太陽光発電パネル以外の事業の継続を確約したとされている。
 シャープとしては、役職員の雇用が守られ、同じ仕事を継続できるのであれば、鴻海の提案に乗りたくなる。また、シャープに融資をしている銀行にとっても、鴻海が高額で買収してくれれば、不良債権化が防げることになる。

 問題は、なぜ産業革新機構によるシャープの評価が低いのかということだ。おそらく産業革新機構は、小型液晶パネルの値崩れで窮地に立つシャープの“数字”しか見ていないのではないか。
 シャープは革新の遺伝子を持っている。世界初のトランジスタ電卓、日本初の電子レンジ、油を落とすスチーマーのヘルシオなどを発売してきたほか、省電力を可能とする液晶のIGZO特許を持っている。さらには、「ココロプロジェクト」を進めており、家電製品に人工知能を搭載し始めているのだ。これは、今後の家電産業の大きな潮流になると言われており、シャープは、いわば世界のトップランナーなのだ。
 政府や銀行は、こうした現状をきちんと認識していない。鴻海は同業なので、シャープのすごさが十分に分かっており、だから喉から手が出るほど欲しがっているのだ。

 実は、今回の事態には前例がある。ハイアールアジアだ。'11年、三洋電機が、中国の家電メーカーハイアールに白物家電事業を一括売却することで誕生したのが、ハイアールアジアだ。三洋電機がパナソニックに事実上吸収合併されるなかで、重複する三洋電機の白物家電事業部門がリストラされたのだ。
 ハイアールアジアの製品は、現在アクアというブランドで販売されているが、ここが実に元気だ。ハンディ洗濯機のコトン、スターウォーズ家電、そして最近では、扉の全面に液晶モニターを配した冷蔵庫を発表するなど、画期的な新製品をリリースし続けている。
 ハイアールアジアは、中国資本となったが、日本に立地する会社で、旧三洋電機の従業員を引き継いでいる。いま、鴻海が狙っているのは、明らかにこのパターンなのだろう。政府は、成長戦略と言いながら、みすみす日本の宝を流出させるのだろうか。

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