「ドローンは当初、軍事用のみとして使用されてきた。商業、産業全般にわたり急成長したのはここ数年。背景にはバッテリーやカメラ技術の進化、そしてGPS機能が備わったことで、ドローンの操縦を高精度でコントロールできるようになり、使用用途が拡大。そのため市場が大きく伸びつつあります」(IT企業関係者)
ただ、GPSのみでは、大気の影響などで数メートルの位置誤差が生じていた。
「そのため数年前までのドローンは、建設現場での狭い範囲、高圧電線がある場所などでのコントロールは困難で、産業分野での実用化は難しいと言われていました。そこにRTK(リアル・タイム・キネマティック)という新技術が開発され、ドローンのコントロール精度が一気に高まり、実用化に拍車がかかりました」(同)
RTKとは、ドローンとGPSとの通信で生じていた誤差を補正する技術。RTK機器をドローンに搭載することで10メートルとも言われていた誤差が1センチ単位まで補正。ピンポイントでコントロールすることを可能にした。
「このRTKにより建設現場での測量、農薬散布、配送などで商用、産業用ドローン利用の機運が一気に高まり、実際、一部では運用も始まりました」(建設業界関係者)
例えば、10月に発生し、日本全国に甚大な被害をもたらした台風19号でも大活躍したという。
「台風19号によって東京都奥多摩町日原地区でライフラインの幹線道路、都道204号線が土砂崩れで塞がれ、約40世帯70人が孤立した。東京都はドローンで生活必需品の運搬にチャレンジしました」(防災関係者)
崩落現場近くのビルから重さ約2キロの荷を下げたドローンが山を越え約2.5キロを飛行。5分ほどで孤立した住民のもとに救援物資が配送された。飛行は計3回繰り返され併せて6キロの救援物資が届けられ、被害者救済に大きな役割を果たした。
今年9月には国内配送最大手「ヤマトホールディングス」が米ベル・ヘリコプターと共同で、無人貨物用ドローンの試験運搬飛行に成功している。試験飛行で使われたドローンは、高さ1.8メートル、幅2.7メートルという大型ドローン。重さ約32キロまでの荷物を運びながら、時速約160キロで飛行可能だという。
「運送業界はどこも人手不足と人件費の高騰などで苦しい経営状態。その不安材料を打開する切り札として業界でのドローンへの期待は大きい。今回のヤマトの試験飛行で、ドローンによる配送の実現に大きく近づいたと言えるでしょう」(運送業界関係者)
台風19号被害では、保険会社でのドローン活用も一段と進んだ。
「三井住友海上火災、あいおいニッセイ同和が被害情報収集のため、ドローンを長野や福島などに飛ばして調査したのです」(大手保険会社の社員)
ラグビーW杯で初ベスト8入りした日本代表でもドローンは大活躍した。
「日本チームは、これまでもドローンを使って練習を撮影し、ポジションチェックや戦術確認に使用してきました。今後は、様々なスポーツでの活用が期待されます」(スポーツ業界関係者)
そして、防衛分野でもドローンが実用化寸前だ。
「三菱重工業は’19年、1000キロ離れた遠距離のドローン操作実験に成功。これで尖閣諸島の不審船監視・追跡、さらに密漁船の監視など沿岸防備に大きな役割を果たせるシステムと、関係者から期待の声が上がっています」(防衛省関係者)
様々な業界で活躍中のドローンだが、懸念事項もある。
「’19年9月にサウジアラビアの石油施設がドローンによって攻撃されました。数千億円の対空ミサイル迎撃システムを持つサウジが1機2〜3万円のドローン攻撃で、石油生産量の5%が被害を受けたのです」(社会部記者)
しかも、米国はイランの仕業と見て非難を強めるが詳細は不明だという。
「日本もドローンでの東京五輪テロや原発テロなどに対して、抜本的対策の必要に迫られています」(警察庁関係者)
精密にコントロールできるようになったことで“空の産業革命”を起こしたとも言われるドローン。原子エネルギーから原爆が作られたように、兵器として悪用されないことを願いたい。