そんな中、日本人選手で大活躍する可能性がいちばん高いのは誰かと問われれば、筆者は躊躇なくヤンキースの田中将大だと答える。なぜなら今季は追い風になる要素がたくさんあるからだ。
★追い風〈その1〉昨年8月から元の田中に戻った
昨季、田中は7月まで、ゴロを打たせて効率よくアウトを取ることを最優先にしていた。そのためツーシームを多投し、フライになりやすいフォーシームを極端に減らしていた。
しかし、ツーシームは沈む軌道になるため、田中最大の武器であるスプリッターとの軌道差が小さい。そのためスプリッターを低目に投げても空振りを奪えず、結果的に球数を節約することはできなかった。
そこで、表に上げたように8月からフォーシームを大幅に増やしたところ、スプリッターとの軌道差が大きくなってハイペースで空振りをとれるようになった。それによりメジャー1年目の前半に見せたような奪三振の多い切れ味鋭いピッチングが甦り、フォーシームを多投し始めた8月7日以降の9試合は7勝1敗、防御率2.27という目を見張る数字だった。
今季は開幕からこのピッチングで行くことは確実なので、序盤からサイ・ヤング賞を争うレベルのピッチングが見られるかもしれない。
★追い風〈その2〉女房役は今季も相性のいい2人
田中は昨年、チームの正捕手だったマッキャンとは相性が悪く、バッテリーを組んだ15試合の防御率は4.17だった。それに対し8月中旬にメジャーに上がった若いゲーリー・サンチェスと組んだ7試合は防御率1.94、6勝0敗だった。第2捕手のローマインとも相性がよく、バッテリーを組んだ9試合の防御率は2.16という素晴らしい数字を残している。
ヤンキースはオフに正捕手マッキャンをアストロズにトレードで放出。今季はサンチェスが正捕手に抜擢される。第2捕手は引き続きローマインが務めるので、田中は今季、相性が抜群にいい捕手2人とフルシーズン、バッテリーを組めることになった。しかも、サンチェスかローマインが故障しても、第3捕手にリードの上手い日系人捕手カイル・ヒガシオカが控えている。
田中が大捕手であるマッキャンと組むといい結果が出ず、経験に乏しい若手や控え捕手と組むと好投するのは、マッキャンのような実績のある大先輩が相手だと遠慮があるので、投げたい球種を投げられない面があるからだ。それに対し、サンチェス、ローマインに対してはサインに首を振り続けて100%自分の投げたい球を投げられる。そういうときの田中は好成績を出すのが常だ。
★追い風〈その3〉オプトアウト
田中はヤンキースと7年1億5500万ドル(170億円)の契約を交わしているが、この契約にはオプトアウト条項(契約を破棄するか選べる)があり、4年目(2017年)終了時点で望めば、FAになって他球団に移籍できることになっている。また、球団からさらにいい条件を引き出して残留することも可能だ。
それが可能になるのは好成績をあげた場合に限られるが、最近では7年1億6100万ドル('09〜'15年)でヤ軍と契約したCCサバシアがオプトアウトの年('11年)に防御率3.37というまあまあの数字を出し、同水準の年俸で実質2年の契約延長を勝ち取っている。
田中の場合も、トップ10に入るレベルの防御率(3.20以内)をマークできれば、同水準の年俸(2200万ドル=24・5億円)で1年、サイ・ヤング賞を争うレベルの活躍を見せれば2年契約を延長できるだろう。これは大きなモチベーションになる可能性が高い。
田中はメジャー挑戦を控えた'13年に東北楽天で24勝0敗をマークしており、モチベーションが高くなればなるほど凄みが増すので、今季は期待が膨らむ。
★追い風〈その4〉試合終盤は最強の逃げ切りコンビ
昨年7月末、ヤンキースは優勝の望みがなくなったと判断し、最強のリリーバーであるチャップマンとAミラーを相次いで放出。それに伴ってクローザーに抜擢されたベタンセスだったが、酷使がたたってシーズン終盤に失投が多くなり、リードをひっくり返させるケースが続出した。
しかしヤ軍はオフに、チャップマンを連れ戻すことに成功。8回ベタンセス、9回チャップマンという最強の逃げ切りコンビで今シーズンに臨むことになる。
田中は昨年8月に投球パターンを変えてから7回終了まで持ちこたえられるようになったので、8回、9回にこのコンビが控えていることは大きな意味を持つ。7回まで1点でもリードを守って降板すれば自動的に勝ち星が付くからだ。7回ないし8回の途中で走者を残して降板した場合も、後続の投手が打たれて自分に自責点が付くケースがほとんどなくなるので、防御率をよくする効果も大きい。
このように今季の田中には、追い風が吹きまくっている。メジャー1年目に見せたような活躍が見られるかもしれない。
スポーツジャーナリスト・友成那智(ともなり・なち)
今はなきPLAYBOY日本版のスポーツ担当として、日本で活躍する元大リーガーらと交流。アメリカ野球に造詣が深く、現在は大リーグ関連の記事を各媒体に寄稿。日本人大リーガーにも愛読者が多い「メジャーリーグ選手名鑑2017」(廣済堂出版)が発売中。