栃木工場に20年以上勤めている男性は「雇用を守るなんて最初から信じていない」と話す。
「私たちだけじゃなく、当然下請け企業などにも波及する話です。現在、シャープ関連の主な下請けは矢板周辺だけで5社ほど。栃木県全体では運輸、梱包会社、代理店、金融機関など150社に上るといわれているので、シャープが風邪をひけば、みんなたちまち倒れることになります」(同)
白地に赤の『SHARP』の看板が目を引くJR矢板駅西口ロータリー。客待ちをしている初老のタクシー運転手は以前、同じように企業に依存する町、茨城県日立市で働いていたという。
「企業城下町と呼ばれる市町村は、どこも同じような問題を抱えているでしょう。特に企業税収の割合が大きい市町村の場合、リストラで収益が大きく減れば税収も減るわけだし。まして撤退なんてことになれば、税収は一気にゼロになるものね。怖いのは『企業=金のなる木』と考えて、ツケを将来に送ってしまっている場合。例えば、入りもしない“箱モノ”とかだけど、ここにはあんまりそういうのはないかな。まあそうすると、撤退で金のなる木がなくなった途端にツケが払えなくなってしまうから…。何だか企業城下町は炭鉱の町に似ているのかもしれない。でも、炭鉱廃止よりタチが悪いのは、国やらの支援策が全く当てにできないことだよね。もしシャープが撤退してしまったら、国策でも何でもないわけだから、国から支援なんて期待できないもの」
4年前、シャープは鴻海の資本を導入して大阪府堺市に液晶パネル製造会社『堺ディスプレイプロダクト』を設立、'15年12月期決算で3年連続の黒字を記録した。ここで築いた実績を糧に鴻海との信頼関係を強化し、経営再建を目指したい考えだ。
しかし、倒れ掛かったものを元に戻すのは新しく作るよりも困難であり、リスクも伴う。起死回生を図るには、よほどのヒット商品を生み出すしかない。その一環としてシャープはこのほど、新型家電のロボット携帯電話『ロボホン』の発売を開始した。通話の他、カメラ機能や会話機能を備え、女性や高齢者のニーズに合わせた携帯電話だ。
「こういうニュースは矢板の市民にとってもうれしいね。まあ、シャープの町として今までやってきたことに誇りを持ってやっていけば、これからも大丈夫!」
タクシー運転手は、最後に明るく話してくれた。