今季年俸は2億8000万円。ざっくり計算しても、来季の年俸3億円超えは確実だろう。ところが球団の総年俸は12球団最下位の20億9175万円で、45億7640万円の巨人ならともかく、容易に出せる金額ではない。
「それをわかっているから、前田も昨オフにメジャー転身を申し出、球団も快く送り出そうとしているのです。球団が前田に突き付けている条件はただ一つ。ポスティングシステムで“上限の20億円入札があった場合限定”というもの。それ以下なら、海外FA資格を得る2017年まで広島に奉公させる方針のようです」(広島担当記者)
松坂大輔が60億円、ダルビッシュ有が40億円といった具合に、入札額が青天井だった当時ならともかく、田中将大のポスティング移籍を機に上限が20億円に設定され、広島としては無条件でメジャー転身を認めるわけにはいかないのだ。
そこで前田が画策しているのが、「入札額が20億円以下だった場合に備えての巨人移籍」だという。順当にいけば2年先、2016年オフには国内FA資格を得られる。そうなれば、大手を振ってジャイアンツのユニホームを着ることができるのだが、カープの財政がそれを許さない。そこに付け込んだのだ。
広島がこの話に乗る可能性はある。理由は二つ。このオフに前田の年俸が3億円を突破すること。先に述べたが、市民球団の赤ヘルにはとても払える額ではなく、6年前に黒田博樹をFAでドジャースに出した際も年俸は2億5000万円。2億円台が出せる限界ラインなのだ。
もう一つは、昨年、FAで巨人に売り付けた大竹寛がジャイアンツの水になじめず、肩の故障もあって思うように勝ち星を挙げられないこと。巨人サイドからは“バッタモンをつかまされた”と不満の声が上がっているが、いまさら返金ともいかず、前田で穴埋めをしようとしているのではないか、という情報が囁かれているのだ。
広島からすれば、前田を巨人にトレードすれば、3億円超のコストカットができる上に大竹の帰還に加えて若手の好素材を獲得することができる。こっちの方が得という算盤勘定だ。
「実はカープは、巨人との結び付きが深い。独立採算という経営形態から、これまで川口和久、江藤智、大竹をFAで移籍させている。一方、金本知憲、新井貴浩は阪神に移籍させており、こちらとも友好関係にある。もし、前田が2年後に国内FA資格を獲得すれば、両球団の激しい綱引きが予想され、巨人としては“今のうちに獲得しておこう”というもくろみがある。そこでひねり出したのが、大竹とのトレードという“ウルトラG”なのです」(広島OBの野球解説者)
前田にとって、巨人は広島以上に居心地がいい。原辰徳監督とは試合があれば必ずあいさつに出向く仲だし、捕手の阿部慎之助とはワールドベースボールクラシックで黄金バッテリーを組んだ間柄、同い年の坂本勇人とは互いに認め合うライバル関係だ。YGマークのユニホームを着ても、すぐに溶け込んでいける環境にある。
「前田が最も信頼を寄せているのがカープの偉大なOBである山本浩二氏です。日本テレビの解説者を長く務め、読売グループの信頼も厚い。阿部とは侍ジャパン前監督としてホットラインを持ち、公私ともに親しい。前田の気持ち、カープの球団事情、そして大竹の心情も熟知しているのが山本氏です。そこで『巨人で3シーズンプレーし、海外FA権を手にしてメジャーに旅立て。その際は松井秀喜氏が橋渡ししてくれる。優勝のタイトルを味方にすれば、契約金もグーンと跳ね上がる』と知恵を授けているという情報もある。もちろん、前田の意思だけでどうにかなる問題ではないが、ミスター赤ヘルが動けば不可能な話ではない」(スポーツ紙デスク)
もっとも、これは今オフのポスティング移籍が不発に終わった場合の話だが、その可能性も否定できない。
今季は、松坂、和田毅が負傷から復帰したものの、田中が右肘を痛めて戦列を離れ、藤川球児も鳴かず飛ばず。“日本人投手神話”に陰りが見え出しており、先輩たちと違い、優勝経験を持たない前田は満額入札を逃す可能性がある。
「その場合は2年待って国内FAを獲得し、巨人に移籍する方法もある。要はその間、前田の年俸をカープが捻出できるかどうか。マエケン夫人は元東海テレビのアナウンサーで、千葉県柏市で育ち、大学は横浜のフェリス女学院。東京での仕事を希望しており、それも併せて話が進んでいるようです」(前田と親しい放送関係者)
9月15日、前田はようやく今季の巨人戦初勝利を挙げた。この試合まで巨人戦に5試合登板し、0勝3敗だった。この奇怪なナゾは“今オフ、もしくは2年後の巨人入りの道筋ができたことで実力発揮”−−。そう考えれば合点がいく。