結論から言えば、こうした発言はあまりにピント外れで、筆者は失笑を禁じ得なかった。彼らが、大リーグ野球は落ち目で、人気も衰退していると考える根拠は年々視聴率が低下しているからであり、それ以外の根拠はない。
たしかにMLBのオールスターゲームやワールドシリーズの視聴率は20年前に比べると低下の一途をたどり半減していると言っても過言ではない。
しかし、これはテレビを見ない人が急増していることが最大の要因だ。米国ではネットやゲームの普及でこの20年の間にテレビを見ない人が増え、50%以上がテレビを見なくなった。
そのため米国では週間視聴率トップテンの1位になる人気番組でも視聴率は6.0%前後で、4.0%をマークすればトップ10入りが可能だ。そんな中で、今年のMLBオールスターゲームは6.6%という高視聴率をマークしたのだから、優良番組以外の何物でもない。
野球以外の4大スポーツのオールスターゲームと比較しても、MLBの6.6%という数字はNFL(フットボール)5.6%、NBA(バスケット)4.4%、NHL(アイスホッケー)0.8%を上回っており、落ち目どころか、依然、米国でもっとも注目度の高いオールスターイベントなのだ。
筆者が今回米国におけるプロ野球中継をテーマにしようと思い立ったのは、莫大なテレビ放映権料が大リーガーの超高額年俸を支えていることを知っていただきたいからだ。
メジャーでは選手の平均年俸が400万ドル(4億8000万円)を超え、エース級ともなれば田中将大のように2000万ドル(24億円)を超すのが当たり前になった。
日本の球場の平均入場料は2400円であるのに対し、メジャーは29ドル(3500円)で大きな開きはない。ビールの値段はメジャーの球場が平均6ドル(720円)に対し日本の球場は700円なのでほぼ同額だ。
MLBの球団にあってNPBの球団にないもの、それは莫大な放映権料だ。しかも放映権料には全国放映権料の分配金と球団が独自で販売できるローカル放映権料があり、ダブルで潤う構図になっている。
日本ではプロ野球中継は基本的に全国中継で行われるが、米国はローカル放映が基本である。全国放送されるのは週に4、5回しかない。
MLBは高視聴率が見込めるポストシーズンゲームの全試合とオールスターゲームに、この週4、5回の全国放映権を抱き合わせにしてFOX、ESPN、TBSの3社に放映権を販売。FOXテレビはCBS、NBC、ABCの3大ネットワーク体制を崩壊させた新興勢力の雄、ESPNはケーブルのスポーツ専門局でスポーツ中継の王者的存在、TBSはテッド・ターナーが創業した準メジャー局だ。MLBに支払っている放映権料はFOXが年間5億ドル(600億円)、ESPNが4億ドル(480億円)、TBSが3億ドル(360億円)で、この3社だけで年間1500億円近い放映権料をMLBに支払う計算になる。
これ以外にも海外から160億円くらい放映権料が入るので、MLBの全国放映権収入は年間1700億円前後になると推定されている。メジャーでは30球団が平等に扱われるため、この1700億円を30で割った金額=50数億円が平等に分配される。
メジャーではレイズ、ロイヤルズなど、マーケット規模の小さい都市のチームが積極的な補強を行って最強チームを作り上げたが、それができるのは、この莫大な分配金があるからだ。
最近急騰しているのが各球団が権利を持つローカル放映権料だ。
野球は他のメジャースポーツに比べて試合数が多いうえ、視聴者数が安定している。しかも、購買力の高い中高年の男性に人気があるため、いいスポンサーがたくさん集まる。そのためニューヨークやロサンゼルスではローカル放映権が高騰し、ドジャースが地元の有力局(タイムワーナー・ケーブル)と締結した契約は今後25年間に渡り、毎年3.3億ドル(400億円)をドジャースに支払うという、途方もない規模の契約だった。
ドジャースは数年後、大谷翔平獲得に動く可能性が高いが、このローカル放映権収入があるので田中将大の7年155億円を上回るオファーを提示するだろう。200億円を超す可能性もある。
スポーツジャーナリスト・友成那智
ともなり・なち 今はなきPLAYBOY日本版のスポーツ担当として、日本で活躍する元大リーガーらと交流。アメリカ野球に造詣が深く、現在は各媒体に大リーグ関連の記事を寄稿。'04年から毎年執筆している「完全メジャーリーグ選手名鑑」(廣済堂出版)は日本人大リーガーにも愛読者が多い。