「米国が正恩に直接制裁を科すのは初めてです。過去に制裁指定された国家元首はフセイン、アサド、カダフィがいますが、彼らに続き4人目の“栄誉”を得たことで、名実ともに世界の暴君の仲間入りを果たした格好です。経済制裁の先例としては、2005年にブッシュ政権がバンコ・デルタ・アジア銀行への制裁を発動し、金ファミリーの資産を凍結しています。他の銀行も米国の金融システムからの排除を恐れ、北との取引を停止しました。北はミサイルの部品購入ができなくなり、慌てて措置の解除を懇願し、ブッシュはライス国務長官とヒル国務次官補の進言に押されて北朝鮮による非核化の約束と引き換えに'07年に口座凍結を解除しました。結果的に北は約束を反故にしましたが、この例から北が最も恐れるのは国際的な金融システムへのアクセス禁止であることがはっきりしたのです」(通信社記者)
ミサイルの射程に入ったとされる米国は、サマンサ・パワー国連大使が「制裁を徹底し、兵器を開発するための資金や資材を調達するネットワークを崩して非核化に向けた交渉のテーブルに北朝鮮を着けさせなければならない」と呼び掛け、3月に安全保障理事会で採択された北朝鮮との天然資源の取引の制限や、すべての貨物の検査を義務付けた制裁決議の履行を加盟各国に強く働き掛けた。
また、オバマ政権の北朝鮮による外貨獲得手段制限作戦は、これまで盲点だった北朝鮮労働者の出稼ぎ禁止を各国に要請している。ただし、北朝鮮からの派遣労働者が多い中国とロシアは含まれていない。
ところが、北は言うに及ばず、北の庇護者である中国までもが、さっそく今回の米国の措置を「一方的措置」であり、制裁は「中国の正当な権利と利益を害することがあってはならない」と批判した。
「中国は、米国のシステムに依存しない一部の銀行に北と取引をさせたり、北への援助を強化したりして、米国の措置を妨害することができるのです」(北朝鮮に詳しい大学教授)
この教授が続けて言うには、最近の中朝関係には関係修復とも受け取られる動きがみられるという。一つは5月9日に習近平国家主席が金正恩委員長に北朝鮮労働党委員長に推戴されたことを祝う祝電を送っていること。さらに6月1日、北京を訪問中の李洙○(=土へんに庸)朝鮮労働党副委員長と会談していることだ。
「約3年ぶりの北朝鮮要人との会談でした。5月の党大会で正恩は、既成事実化を狙って『責任ある核保有国』を宣言しています。中国としては、このまま正恩を野放しにすれば高高度防衛ミサイル(THAAD)の在韓米軍への配備という軍事的脅威を止められない。そのため今回の李副委員長との会談では、『原子力発電などの核開発は認めるが核実験は封印する』と約束させたのではないかとみられています」(同)
中国が「THAAD」の配備に強く反対するのは、在韓米軍レーダーにより自国の戦略ミサイルの動向がいち早く把握されることで、「米国への核抑止が無効化される」と認識しているためだ。
「米国のミサイル配備に対抗するために、北への経済制裁緩和をチラつかせています。一方、ロシアも中国と立場を同じくしており、中露が軍事的連携を強める懸念も出ている。その場合ロシアが仲介し、中国の対北援助を再開するかもしれない。瀋陽軍区(旧満州)は闇で北と取引し、制裁など実際は効いていませんから」(軍事アナリスト)
米軍の作戦行動計画『5015』は発動されたままだ。この作戦コードの『50』は朝鮮半島を、『15』は核承認者の“排除”を意味している。すなわち、核のスイッチを押せる金正恩を抹殺する、という暗殺決行のサインに他ならない。これまで『コード15』はウサマ・ビン・ラディンやIS戦闘員のジハーディ・ジョンと呼ばれた男に対して使用され、成功している。正恩暗殺ではジョンの処刑時と同様、無人戦闘機が使用される可能性もある。
あるいはこのまま米国に口実を与えないため、中国が先に動くことも選択肢の一つとして考えられる。
「中国は亡命中の“金正男カード”を持っている。北朝鮮国内で暗殺やクーデターが起きれば、いつでも正恩の首などすげ替えられるのです。そうすれば在韓米軍の緩衝地帯としての北朝鮮を温存できます。しかし、正男の賞味期限は過ぎている。そこで担ぎ出されるのが、金漢率(キム・ハンソル)。正男の長男です。儒教文化圏では長男が家督を継ぐことが当然という認識ですから、中国から見ても最も正統的な後継者といえます。米国も漢率なら乗りやすい。'13年8月にパリ政治学院に進学しているし、'12年10月にフィンランド国営放送が行ったインタビューでは、北朝鮮の福祉の向上に寄与すること、人権改善のために努力し世界の平和を構築したい、という抱負を明らかにしていますから、米国にとっても“適任者”といえます」(前出・記者)
オバマ大統領は任期終了前に歴史に残る大政策を成し遂げようとしている。それがキューバとの国交回復であり、打倒・北朝鮮なのだ。