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世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第14回 日銀の異様な「インフレ」の定義

 日本政府と日本銀行が1月22日、物価安定目標を2%と設定する、いわゆるインフレ目標を宣言する「デフレ脱却と持続的な経済成長の実現のための政策連携について」という共同声明を発表した。
 筆者は上記の共同声明に「点数」を付けろと言われると、「100点満点中、10点」と答えている。何しろ、今回の共同声明で明示された「インフレ目標2%」には達成期限がない。達成期限がない目標は、本来は目標と言わない。

 共同声明では、インフレ目標の達成時期について「できるだけ早期に実現する」となっている。これは野田前総理の「近いうち」に匹敵するほど当てにならない。と言うより、いい加減に我が国はこの手の「言葉による逃げ」はやめるべきだろう。
 「できるだけ早期に」といった表現では、インフレ目標がなかなか達成されない場合、日銀側は「できるだけ早期とは、できるだけ早期という意味だ」と逃げを打ち、誰も責任を取ろうとしないだろう。

 さらに問題なのは、インフレの定義である。共同声明では、インフレ目標について、
 「日本銀行は物価安定の目標を消費者物価の前年比上昇率で2%とする」
 となっている。この「消費者物価の前年比上昇率」が曲者なのだ。
 何しろ、日本銀行が言う消費者物価とは、「コアCPI(生鮮食品を除く総合)」を意味しているのである(CPI=消費者物価指数のこと)。

 実は、同じくCPIと呼ばれているが、日本の消費者物価指数には大きく3つの種類がある。しかも、グローバルなCPI指標とは定義が異なるため、ややこしいことこの上ない。以下が日本のCPIの定義である。
 ◆CPI=総合指数=エネルギーや生鮮食料品など、日本の需給関係と無関係に価格が変動しがちな商品を含む消費者物価の総合指数。
 ◆コアCPI=生鮮食品を除く総合指数=生鮮食料品を除いた消費者物価指数。エネルギー価格の影響を受ける。
 ◆コアコアCPI=食料(酒類を除く)及びエネルギーを除く総合指数=天候や外国の影響を受けやすい食料(酒類を除く)及びエネルギーを除く消費者物価指数。実は、グローバルで「コアCPI」といえば、この指標のことを示す。なぜか日本銀行だけ「グローバルなコアCPI」を「コアコアCPI」と呼び、オリジナルな「コアCPI(生鮮食品を除く総合)」という指標を用いている。

 ご理解頂けただろうか。日本以外の国々にとって、コアCPIと言えば「食料(酒類を除く)及びエネルギーを除く総合指数」のことなのである。ところが、なぜか日本は「グローバルなコアCPI」のことを「コアコアCPI」と呼んでいる。
 さらに、わざわざ「生鮮食品を除く総合指数」をクローズアップさせ、「コアCPI」と名付けたのだ。日銀の言う「コアCPI」と、グローバルなそれとは全く異なる指標である。
 グローバルには、インフレ・デフレの最終的な判断は「コアCPI」で測られる。とはいえ、この数値は日本にとっては「コアコアCPI」であり、日本式コアCPIではない。
 ならば、日本銀行がコアコアCPIでインフレ・デフレの判断をするのかと言えば、こちらは日本式コアCPIなのである。すなわち、今回の共同声明では「生鮮食品を除く総合指数」でインフレ率2%の目標を設定したわけだ。

 日本式コアCPIでインフレ率を測ると、問題が発生する。
 例えば中東で戦乱が発生し、我が国に原油や天然ガスなどの鉱物性燃料が入ってこなくなると、エネルギー価格が跳ね上がる。
 日本式コアCPIはエネルギー価格を含んでいるため、外国の戦乱で原油価格が高騰してしまうと、消費者物価指数も上昇する。
 あるいは、アメリカの量的緩和の影響で原油先物が急騰し、エネルギーコストが急上昇した場合も同じ現象が発生する。

 バブル崩壊後のCPI、日本式コアCPI、コアコアCPIの推移をグラフ化してみた。
 CPIとコアCPI(生鮮食品を除く総合)が、ほぼ同じ動きをしていることが確認できるだろう。
 しかも、2008年にCPIと日本式コアCPIが大きく跳ね上がっていることもわかる。
 なぜ、この時期にCPIと日本式コアCPIが跳ね上がったのか。もちろん、資源バブルの影響である。
 エネルギー価格の影響を露骨に受ける日本式コアCPIを「インフレの指標」にされ、
 「コアCPIが2%に達した。インフレ目標達成だ! デフレ脱却だ! 増税だ!」
 などとやられては、たまったものではない。
 日本式コアCPIではなくコアコアCPI(グローバルなコアCPI)を見れば、'08年時点でさえ辛うじて横ばいで、物価は全く上がっていなかった事実を確認できるだろう。

 我が国のコアコアCPIは、'98年以降、延々と下落を続けている。紛うことなきデフレーションだ。
 少なくとも現在のデフレに苦しむ日本において、インフレ率はコアコアCPIで測るのが正しい。
 日銀の欺瞞を許してはならない。

三橋貴明(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、わかりやすい経済評論が人気を集めている。

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