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USA発 新聞、テレビではわからないMLB「侍メジャーリーガーの逆襲」 中5日“特別待遇”で投げても防御率は平均レベル 迷走が続く田中将大7つの疑問

 勝ち星にこそ恵まれているが、ニューヨークヤンキース田中将大の調子が一向に上がってこない。今回はその原因を探っていきたい。

 Q1:今季のノルマは?
 A:(1)防御率3.00以内 (2)200イニング以上

 −−田中は「年俸2200万ドル(26億4000万円)のエース」という立場なので設定される数字も高くなるが、8月13日現在の防御率は3.79で、先発投手の平均値(4.03)より多少いいという程度だ。先発4番手ならこれで十分だが、エースの防御率としてはかなり低レベルな数字だ。

 Q2:エースとして機能しているか?
 A:していない

 −−エースはフルシーズン先発の柱となってローテーションを牽引する。どのチームも一番実力のある投手をより多くの試合に登板させたいため、大半のエースは中4日の登板間隔で回転する。田中の現状は、こうしたエース像とは程遠い。
 今季先発した16試合のうち、中4日で登板したのはわずか2試合で、それ以外は中5日以上の登板だ。メジャーでは先発投手は中4日で回すのが基本なので、ローテーションの中に一人だけ特別扱いされて中5日で登板する投手がいると、他の投手にしわ寄せがいく。
 いちばんの被害者は先発2番手のマイケル・ピネダだ。肩の故障で'12年と'13年の2年間、1度も登板がなかった故障リスクの高いピネダだが、田中を中6日で投げさせることが優先されたことにより、今季は4月から中4日で酷使され続け、7月下旬についに前腕筋を痛めてDL入り。復帰は9月下旬になる見込みだ。
 田中を中5日で使う場合、ロングリリーフの投手を6人目の先発にして回すことが多くなる。そうなるとリリーフ投手が一人減るためセットアッパーや中継ぎ陣の登板頻度が増し、故障リスクが高くなることも大きな問題だ。

 Q3:田中だけが中5日で使われている理由は?
 A:中4日で使うとヒジの靭帯を再度痛めるリスクが高くなるから

 −−もし、ひじの靭帯を再度痛めてトミージョン手術を受けることになれば、13〜15カ月、戦列を離れることになり、球団はその間の俸給2500万ドル(30億円)をドブに捨てることになる。それを避けるため、ヤ軍は田中を中5日で使い続けることを選択したのだ。

 Q4:年俸に見合った働きをしている?
 A:今季の働きは年俸の3割程度

 −−田中は、貢献度を示すWARが、シーズンの70%が終了した8月13日の時点で1.3だ。WARは1.0が400万ドルなので、今季は、8月13日までに520万ドル相当の働きをしたことになる。年俸の70%は1540万ドル(18億円)なので、田中は年俸の3割程度しか働いていないことになる。

 Q5:勝利数が多いのは投球内容がいいから?
 A:ノー。最大の要因は得点援護の多さ

 −−投球内容がイマイチなのに、8勝もしているのは、味方打線がたくさん点を取ってくれるからだ。
 得点援護(RS)は5.13で、多い投手のリーグ十傑に入っている。これくらい味方が点を取ってくれると6回ないし7回を3点以内に抑えれば、かなり高い確率で勝ち星が転がり込んでくる。米国では価値の低い勝ち星を「チープ・ウィン(安っぽい勝利)」と呼ぶが、今季の田中はそれが多い。

 Q6:防御率が冴えないのにまだ口うるさいニューヨークのメディアからバッシングされないのは、なぜ?
 A:もっと働きの悪い超高額年俸投手がいるから

 −−NYのメディアは口うるさいことで知られるが、田中の働きの悪さをやり玉に挙げる記事はほとんど見られない。これは先発3番手のサバシアのおかげだ。
 サバシアは元エースだが、ここ数年は衰えが顕著。今季は年俸2300万ドル(25億円3000万円)なのに、序盤から防御率が5点台に張り付いたまま下がる気配がない。メディアやファンのフラストレーションは今のところ、この不良資産化した大物に向いていているので、田中はその恩恵にあずかっている。

 Q7:今季目立つ「一発病」の原因は?
 A:速球系(フォーシーム、ツーシーム)の失投が多い

 −−田中は手首の故障が癒えて6月3日に復帰したあと、失投をスタンドに運ばれるケースが目立って多くなり、6、7月の2カ月間で13本も一発を食った。多いのはツーシームでカウントを稼ぎにいったのが甘く入って痛打されるケースだ。米国のメディアも関心を寄せており、スポーツ専門局ESPNは「この一発病は田中とヤンキースにとって深刻な問題になる恐れがある」と指摘している。
 ここでいう「深刻な問題」とは、シーズン終盤に予想されるブルージェイズ、オリオールズとの地区優勝争いで、田中がたて続けに一発を食うリスクだ。両軍はメジャー1、2を争う重量打線のチームで、田中は7月23日のオリオールズ戦では8回途中を投げて勝ち投手になりながら、ソロホーマーを3本食らって3失点している。
 田中の速球は平均147.5キロ。メジャーでは遅い部類に入るので、甘く入ると一番タイミングを合わせやすいボールになる。終盤の地区優勝を争う試合で結果を出せるかどうかは、一発病を克服できるかどうかにかかっている。

スポーツジャーナリスト・友成那智
ともなり・なち 今はなきPLAYBOY日本版のスポーツ担当として、日本で活躍する元大リーガーらと交流。アメリカ野球に造詣が深く、現在は各媒体に大リーグ関連の記事を寄稿。'04年から毎年執筆している「完全メジャーリーグ選手名鑑」(廣済堂出版)は日本人大リーガーにも愛読者が多い。

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