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USA発 新聞、テレビではわからないMLB「侍メジャーリーガーの逆襲」 日本とはまったく違うメジャー球団のオーナーたち 大リーグの球団に親会社が存在しない理由

 日本において、球団経営は大赤字が当たり前で、実質的に黒字を計上している球団は巨人、阪神、広島だけ。他の9球団は毎年10億円以上の赤字を計上している。それに対しメジャーでは黒字が当たり前で、30球団中25球団は黒字だ。そのうち12球団は2500万ドル(30億円)以上の黒字を計上している。
 五つある赤字球団もドジャースやタイガースのように観客動員はトップクラスで営業収支は大幅な黒字なのに、関連事業への巨額の投資で赤字を計上しているケースが多い。
 各球団の収支報告を見て気付くのは、昨季地区最下位で観客動員もワーストレベルのアストロズやマーリンズも1500〜2200万ドル(18〜26億円)の黒字を計上していることだ。
 不人気で成績も悪い弱体球団がどこも大幅な黒字を計上できる直接的な要因は、三つの放送網(FOX、ESPN、ターナー)から入る全国放送のテレビ放映権料(年間15億ドル=1800億円)が30球団に公平に分配されるからだ。この制度により、どのチームも年間5千万ドル(60億円)くらいの分配金を受けており、地方都市の球団の場合、それがチーム経営の土台になっている。

 しかし、大リーグ球団の多くが黒字なのは、この全国放映権料の分配が最大の要因ではない。一番大きな要因は、どの球団もプロのスポーツ事業家によって運営されていることに尽きる。
 日本のプロ野球球団には必ず親会社がある。親会社は球団を持つことで10〜30億円の赤字が出ることを覚悟しており、それを親会社の宣伝予算から補てんしている。
 大リーグにはそんな球団は一つもない。球団のオーナーの大半はスポーツ事業をメーンに展開している企業家で、道楽で経営している者は一人もいない。

 ヤンキースを所有するスタインブレナー家の先代、ジョージ・スタインブレナーは造船事業で成功した人物だが、同家はとっくの昔に事業主体を儲からない造船業から面白いように儲かる球団経営に移行。現在35億ドル(4200億円)と見積もられる同家の総資産のうち9割はヤンキースと、それに関連した事業によるものだ。
 2代目のハル・スタインブレナーはニューヨークのシンボル的な建造物の一つであるヤンキースタジアムを最大限活用してスポーツ・コングロマリットを作ることに注力しており、その手始めとして英プレミアリーグの強豪マンチェスター・シティと合弁でプロサッカーチーム、ニューヨークFC(NYFC)を起ち上げ、今年からヤンキースの試合がない時は同スタジアムをサッカー場に変身させ、平均2万4千人の観客を集めている。

 レッドソックスのオーナー、ジョン・ヘンリーは以前NHK特集で「ヘッジファンド業界の大立者」「金融界で培った情報解析法を球団経営にも応用して成功している」と紹介されたので、日本ではいまだにそれを真に受けている人が多い。しかし、ヘンリーはすでにヘッジファンド業から撤退し、事業の主体をレッドソックスを中心にしたスポーツ事業に移している。
 リーマン・ショックで痛めつけられたうえ、ヘッジファンドは元々ウォールストリートでまま子扱いされている聞こえの悪いビジネスだ。レッドソックスのオーナーとなって地元きっての名士になり、大統領とも会えるようになったヘンリーにとって、続ける理由はどこにもなかったのだろう。
 フォーブス誌の「大富豪ベスト400」の327位にランクされるヘンリーの現在の総資産16億ドル(1900億円)で、そのうちの約7割はレッドソックスとその関連事業によるものだ。ヘンリーは'10年に英プレミアリーグの名門リバプールを4.7億ドル(約572億円)で買収して話題になったが、それが可能になったのもレッドソックスという金の成る木を所有しているからだ。ヘンリーがレッドソックスを買収したのは'02年のことだが、それ以降チームはワールドシリーズを3度制し、人気、実力ともヤンキースを凌ぐ球団になった。それに伴い球団の資産価値も13年間で480万ドルから2100万ドルに上昇。ヘンリーは球場周辺の不動産事業でも莫大な利益を上げており、リバプールの買収資金はそこから生まれているのだ。

 大リーグのオーナーは、今やほとんどがスタインブレナー家やジョン・ヘンリーに代表されるプロのスポーツ事業家で占められるようになった。例外的な存在はマリナーズだ。
 この球団は昨年亡くなった任天堂の元会長・山内溥元会長が実質的なオーナーだった球団だ。山内氏はイチローや大魔神・佐々木の活躍を喜んでいたが野球自体には関心がなく、球場を訪れたのはたった1回で、球団経営は自分の米国に於ける利益代表だったハワード・リンカーン氏(任天堂アメリカの元会長)に任せきりだった。マ軍は'02年以降13年間もプレーオフ進出がないが、リンカーン氏は現在も球団社長の座にある。米国ではあり得ないことだが、日本のような感覚で球団経営が行われてきたので地位を保っていられるのだろう。

スポーツジャーナリスト・友成那智
ともなり・なち 今はなきPLAYBOY日本版のスポーツ担当として、日本で活躍する元大リーガーらと交流。アメリカ野球に造詣が深く、現在は各媒体に大リーグ関連の記事を寄稿。'04年から毎年執筆している「完全メジャーリーグ選手名鑑」(廣済堂出版)は日本人大リーガーにも愛読者が多い。

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