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世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第38回 デフレの原因

 2013年7月21日の参議院選挙において、自由民主党が65議席を獲得。さらに、公明党が11議席。「衆参のねじれ」がついに解消された。
 一方の野党側を見ると、民主党がわずか17議席という大敗北を喫したことで、
 「自民党に代わり、日本の政権を担うことが可能な政党」
 が、事実上、我が国から消滅してしまった。
 もちろん、将来的に自民党に代わる政党が登場する可能性を否定する気はないが、現時点ではいわゆる「二大政党制」の時代が、完全に遠のいてしまったのは間違いない(筆者は別に日本の政治が二大政党制であるべき、などと考えているわけではないが)。
 今後の日本の政界は、与野党の対決ではなく、むしろ「自民党内の路線闘争」が激化していくことになるだろう。

 皮肉なことに、自民党内には明確な「争点」が存在してしまっているのである。すなわち、デフレ対策を巡る2つの路線だ。
 A派:デフレ脱却のためには、金融政策と財政政策のポリシーミックスが必要で、公務員削減、公共投資削減、さらに規制緩和はデフレ促進策である。
 B派:デフレ脱却のためには、金融政策のみで事足りる。財政政策は不要もしくは「多少必要」な程度で、公務員や公共投資は削減し、規制緩和を推進するべきである。
 
 筆者がどちらの「派」に属しているかは、今さら言うまでもない。ちなみに、筆者は経済学者でも何でもないが、アカデミズムの世界でA派的主張を展開しているのは、いわゆるケインズ経済学者たちである。
 それに対し、B派的な主張をしているのが新古典派経済学を信奉する構造改革主義者たちになる。
 両派の違いは、突き詰めると「デフレの発生原因」から生まれていることが理解できる。「なぜ、デフレになるのか?」のロジックが、決定的に違うのだ。

 A派は、デフレの原因を「需要の不足」であるとする。国民経済の供給能力である「潜在GDP」に対し、「名目GDP」という需要が不足し、デフレギャップが発生しているからこそ、デフレになっている。
 解決策は「需要を増加させる」となる。日銀に通貨を発行させ、政府が国債発行で借り入れ、雇用・所得を生み出すように支出する。アベノミクスで言えば「第一の矢(金融政策)」と「第二の矢(財政政策)」を同時に実施することで、国内に政府の消費や公共投資という「需要」が新たに生まれ、デフレギャップが埋まる。
 物価とは、国民の労働で生み出したモノやサービスの価格である。金融政策で「おカネ」の量を増やしたとしても、それがモノやサービスの購入に向かわなければ、物価は上昇しない。すなわち、デフレ脱却は果たせない。
 重要なのは「誰か」がモノやサービスを購入し、名目GDP(需要)上の消費や投資を増やすことだ。デフレ期には民間の企業や家計がおカネを使おうとしない以上、政府がやるしかない。
 特に、現在の我が国は東北復興、首都直下型地震・南海トラフ巨大地震等の「次なる大震災」に備える耐震化、老朽化するインフラのメンテナンスなど、政府がおカネを使わなければならないプロジェクトが目白押しになっている。
 民間が自己負担で堤防を作り、道路や橋梁の補修を実施してくれるならばともかく、現実は異なるため、政府がおカネを使うしかない。
 そして、政府が「国民の安全」のためにおカネを使えば、デフレギャップが埋まる。すなわち、デフレ脱却が果たせる。
 何が問題なのだろうか? というのが、A派の主張である。

 それに対し、B派はデフレの原因を「マネーの量の不足」に求める。B派の代表株である構造改革主義者の竹中平蔵氏は、7月3日の品川における基調講演で、
 「デフレの原因は人口減少でも需給ギャップでもなく、マネーの量が少ないということ」
 と、語っている。デフレの原因は「デフレギャップ(=需給ギャップ)」ではないと断言しているのだ。そして、デフレの原因を「マネーの量が少ないため」だという。竹中氏がいう「マネーの量」が何を意味しているのか、今一つ定義がよくわからないのだが、
 「マネーの量とはマネーストックのことである」
 というならば、氏の発言には「現実を見ていない」という評価を下さざるを得ない。
 現実の日本ではマネーストック(貨幣の量)が意外に堅調に増えているにもかかわらず、コアコアCPI(物価指数)は下落を続けている。これは「モノ」や「サービス」の購入に使用されないおカネの動きにより、貨幣量が増えているということを示唆しているのではないのか。
 実際、土地や金融商品(FXや先物商品など)がどれだけ購入されても、モノやサービスの購入がなされなければ、物価には何の影響も与えない。どれだけ「マネーの量(マネーストック)」が拡大しても、それが物価に影響するモノやサービスの購入に向かわなければ、インフレ率は上昇しない。

 別に、筆者はデフレ対策としての金融緩和を否定しているわけではない。
 単に、金融緩和でマネタリーベース(中央銀行が供給する通貨)やマネーストックを増やしても、それが消費や投資に向かい、「総需要が拡大する」ことがなければ、インフレ率は上昇しないと言いたいだけだ。

 結局のところ、ポイントは「財政出動(政府による需要創出)」を認めるか否かに行き着く。
 竹中氏は、公共投資等の財政出動の拡大には否定的だ。初めに「公共投資を否定する」という変わらざる結論があり、その結論に導くために「デフレの原因はデフレギャップではない。マネーの量の不足が原因だ」と主張しているだけではないのか。
 そうではないというならば、せめて「マネーの量」の定義だけでも明らかにしてほしいものである。

三橋貴明(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、わかりやすい経済評論が人気を集めている。

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