それなのに、なぜマツダが“救世主”なのか。大手証券マンが解説する。
「マツダは今年の3月末、公募増資と第三者割当増資で約2200億円の資金を調達したのですが、現実には2500億円近い手元流動性の資金がある上、銀行の融資枠も2000億円強残っていた。金がタップリある以上、本来ならば資金調達は必要ない。だから『あの調達はVWからスズキ株を買い戻すための錬金術ではなかったか』との憶測を呼んだのです」
マツダの山内孝会長兼社長、スズキの鈴木修会長兼社長とも、そんな見立てを否定しなかったことが市場発のアングラ情報として駆け巡った側面も無視できない。ちなみにマツダは1998年に軽自動車の生産から撤退して以来、スズキから『アルト』『ワゴンR』などのOEM(相手先ブランドによる生産)を受けており、6月末にはワゴン型の軽自動車『パレット』を追加するなど、両社の関係は緊密だ。
むろんVWやフィアットにしても、そんな事情は承知している。しかし、そこはM&Aへの野心をギラつかせる狩猟民族のこと、そう簡単に矛を収めるとは思えない。前出の業界関係者は両社が繰り出すであろう“次の手”をこう指摘する。
「VWは嫌がるスズキを相手に大株主であり続けるメリットがなく、買い取り価格が当時投入した2000億円以上であれば応じるでしょう。ただし、スズキの株価は当時に比べ大きく落ち込んでおり、このままだと株主訴訟リスクが付きまとう。だから、もしも2000億円の価値に条件が改まるのであれば、という皮算用です。もちろん、フィアットが行きがけの駄賃でマツダともどものみ込む、なんてハラがあるのかもしれません」
実はスズキ以上に市場の洗礼を浴びているのがマツダで、今や株価は100円スレスレに低迷している。
どの道、一筋縄ではいかないが、マツダのマネー錬金術は「銀行団が綿密なシナリオを描いた」(関係者)だけに、同社主導の意外な着地点が浮上しそうだ。