「プロ野球の新人は完全な買い手市場。いい選手には億単位の契約金が出ますが、大相撲界は成功報酬制で、どんな大物新人でも契約金はゼロ。最終的には本人の意欲次第ということもあり、説得が難しい。まして、最近は高学歴志向が浸透し、裸一貫、中学を出てすぐ人生勝負に出るという野性味にあふれた子は少ないですから」(担当記者)
このことは数字にも表れている。平成以降、最も入門者が多かったのは若貴フィーバーが巻き起こった平成4年で、223人もの新弟子が殺到。就職場所とも呼ばれる卒業シーズンの春場所だけで151人もいた。ところが、平成18年には2ケタ台に落ち、八百長問題の逆風にさらされた平成23年には60人、その翌年の24年には56人にまで減った。最高時の4分の1だ。
このため、新弟子はますます貴重になり、1人の入門希望者に多くの親方たちが押し寄せ、バッティングすることになる。
現役時代、高所恐怖症でまったく飛行機に乗れず、どこに行くのも電車だった元関脇寺尾の錣山親方は、引退して親方になった途端、飛行機のマイルを貯めるマニアに大変身した。いい弟子をスカウトするには、他の親方たちを出し抜くスピードが求められるのだ。
横綱・白鵬も引退後に備えて新弟子集めに熱心。すでに十両の大喜鵬ら2人の内弟子がいるが、この夏、3人目の内弟子候補が出現した。神戸市在住の15歳の野球少年で、体験入門のために部屋にやってくると自ら玄関まで出迎え、「お手並みを拝見しよう」と汗みずくで10分間もキャッチボールの相手を務めている。
この野球少年が首尾よく入門するかどうか結論はまだ先になりそうだが、“平成の大横綱”までが加わるほど、大相撲界のスカウト戦線は熱い。