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本好きオヤジの幸せ本棚(62)

◎オヤジ人生にプラス1のこの1冊
『月下上海』(山口恵以子/文藝春秋 1365円)

 第20回松本清張賞受賞作である。作者はテレビ等で大きく取り上げられているので、ご存じの方は多いだろう。1958年生まれで、社員食堂で働きつつ、執筆活動を続け、今回の受賞をゲットしたのである。作家が注目を集める、あるいは大成するまでにはそれぞれの道のりがある。本書の作者の場合は“食堂のおばちゃん”という生業を堅実に維持して、一人部屋にいるときは、やはり堅実に物語をつむいでいた、という地道に努力する姿勢がトピックになると考えてマスコミは取り上げたのだろう。実際、出来上がった小説も端正で、丁寧な書き方が成されている。ただ勢いで突っ走って書いた、という感じではない。
 物語は昭和17年=1942年から始まる。財閥令嬢でかつ人気画家の主人公、八島多江子は日本を離れ上海にやって来たばかりだ。中日文化協会からの依頼で個展と講演を行うことが目的である。ストーリーの最初のあたりでは令嬢らしく上品に振る舞っている多江子だが、ある憲兵大尉から戦況に応じたスパイ役を強要されてからは様子が変わってくる。彼女は過去の激し過ぎる恋愛を回想し、そのときのエモーションを再び燃え上がらせながらスパイ活動にまい進する…。史実を徹底的に再現する緻密な筆致ながら、一人の女の激しい心情も描き込む、という技は作者の普段の生き方から生まれたのかもしれない。
(中辻理夫/文芸評論家)

◎気になる新刊
『登山ボディのつくり方』(芳須勲/山と渓谷社・1050円)

 スポーツの経験がなくても、体力に応じてマイペースで楽しめるのが登山の魅力。登山ガイド・管理栄養士・健康運動指導士の三つの顔を持つ著者が、無理なく始められる「登山のためのカラダづくり」の方法をわかりやすく紹介する。

◎ゆくりなき雑誌との出会いこそ幸せなり

 若年層の本離れが加速する一方で、中高年・シニア向けの雑誌が好調と聞く。健康・病気をテーマとした『健康』(主婦の友社/690円)もその一つだ。
 最新号の特集は『腸の浄化法』、巻頭のカラー記事は「鍋ひとつでできるおいしい糖尿病レシピ」。まさにオヤジ世代に向けた雑誌だ。
 『腸』はテレビの健康番組等でも取り上げられることが多い。何でも、母親の胎内で受精卵から人間の形になっていくとき、最初に出来上がる器官は心臓でも脳でもなく、腸らしい。つまり最も古い臓器であり、溜まりに溜まった老廃物を浄化するのが大切なんだとか。この号でも「全ての不調は腸の腐敗が原因」と見出しを打ち、改善法を解説している。
 別冊付録では、尿もれ、頻尿、過活動膀胱、前立腺肥大症の解決術と、これも中高年には大きな悩みをアドバイス。健康法ブームを先取りしたわかりやすい誌面に、役立つ情報が詰まっている。
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)
 ※「ゆくりなき」…「思いがけない」の意

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