FA宣言していた先発投手の山口俊(29、前DeNA)、中継ぎ左腕の森福允彦(30、前ソフトバンク)の2投手を獲得したのを皮切りに、過去4度ゴールデングラブ賞に輝いた元盗塁王の陽岱鋼外野手(29、前日本ハム)も12月14日に巨人入団を発表。球界史上初となる同シーズンオフ、一挙3人のFA選手獲得をやってのけた。
しかし、これだけではまだ足りないとばかり、'13年に楽天が日本一に輝いたときの四番打者・マギーに加え、さらに抑え候補としてメジャーリーグ・シアトルマリナーズの164キロ右腕カミネロの獲得も秒読み状態と言われている。
投打ともに、今季の跡形もないほどの大改造。臆面もなく断行した大型補強に、他球団首脳はもちろん、自軍選手もあ然とするばかり。
「山口、森福、陽のFA3選手獲得だけで総額20億円以上。さらにマギー、カミネロ、ドラフト組を加われば、今オフの総補強費は30億円を超えます。もっと言えば、巨人の外国人助っ人は支配下選手だけでマイコラス(2億4000万円)、マシソン(2億8500万円)、クルーズ(2億4000万円)、ギャレット(1億6000万円)の4人もいる。これにマギー(1億9000万円)が加わり、しめて11億1500万円。さらにカミネロが6人目。試合で使えるのは4人ですから、シーズンが始まれば、取っ替え引っ替え起用する腹なのでしょう」(セ球団の編成担当)
巨人の全盛期だった川上哲治監督率いるV9時代は、長嶋茂雄、王貞治、柴田勲らを中心に“純血主義”を貫き、自前選手を育て、最強チームを作ってきた。後楽園でナイターの試合がある時は、12月4日に亡くなった荒川博コーチ(当時)の自宅に選手たちが自主的に集まり、試合前と試合終了後に素振りをするのが日課。こういった猛練習が球界の盟主・巨人軍を築き、よき伝統でもあった。
ところが、今オフの巨人は、その対極の路線に転じたと言っていい。一・三塁のレギュラーだったベテラン阿部慎之助と村田修一、さらに1番・長野久義に“刺客”を放ち、期待されながら伸び悩んでいた大田泰示や小山雄輝は日本ハムに放出。来季の巨人は28歳のキャプテン坂本勇人を中心に、陽岱鋼らが支えるシフトに移行する。
「透けて見えるのが、来オフにも誕生する松井秀喜氏の監督就任です。球宴前に優勝が危ぶまれる展開になれば、夏場にも松井氏招請のゴーサインが出ると言われています。実は、今回の巨大補強は松井氏の意見を取り入れたようなものです。大枚をはたいて大改造した以上、優勝を逃せば、松井氏は監督要請を受け入れざるを得ない。そこまで読んで、30億円もの強化費をつぎ込んだのです。巨人としては、これで優勝できればそれでよし。V逸したとしても松井政権を樹立できる、というしたたかな計算があるようです」(スポーツ紙デスク)
結果として、巨人のポジション争いは、12球団でもっとも熾烈なものとなった。
外野は陽岱鋼が中堅に入ることで長野が右翼へ。残る左翼を、今季4番にも座ったギャレットと、亀井善行らが争う。
内野は、遊撃の坂本だけが安泰。二塁は片岡治大とドラフト1位ルーキーの吉川尚輝(中京学院大)、一塁は阿部と20歳の岡本和真、三塁は村田とマギーがしのぎを削る。
捕手は今季レギュラーを勝ち取った小林誠司が一番手とはいえ、山口獲得の人的補償で巨人はプロテクトした28選手の中に宇佐美真吾と松崎啄也の2捕手を入れており、競争させるつもりだ。
今ドラフトで吉川を1位指名したのも、二塁手を固定する布石だ。これまでの主力組は、FA選手と外国人選手、ドラフト組に主要ポジションを奪われる可能性が高い。阿部が約6000万円減の2億6000万円、内海が半減の2億円。村田も8000万円減の2億2000万円で更改したことがそれを物語っている。
ベテラン勢からごっそり削った年俸を新戦力の補強資金に回したわけで、巨人内の勢力地図が塗り替わっていることが分かる。
「異様なのは、日本ハムOBが急激に増加していること。現有の乾真大投手、實松一成捕手、北篤外野手に加えて、今オフは交換トレードで吉川光夫投手と石川慎吾外野手を獲得。さらにFAで陽岱鋼が巨人に入団したことで、日本ハムOBは総勢6人になった。G選手会のドン、阿部は『読売ファイターズみたい』だと。無理やり、阿部の息のかかった選手を削った感も否めません」(巨人OBの野球解説者)
血の入れ替えは、“松井ジャイアンツ”誕生へ向けた、環境整備の序幕なのか…。同時にメジャー流のメガ球団移行への始まりでもある。