こう語るのは、防災ジャーナリストの渡辺実氏だ。
11月8日早朝に起きたJR博多駅前の地盤崩落事故。幸い犠牲者は出なかったが、地下では福岡市営地下鉄七隈線の延伸工事中で、その掘削作業が原因だったことは明らかだという。あまりにもろく崩れる現場の様子を見て不安になるのは、地震が起きた場合の崩落。同じような事態は、東京や大阪で直下型地震が発生した場合に誘発される危険が十分にあるというのだ。
「今回の陥没現場で掘削していたのは水を通さない岩盤でしたが、作業中に地下水を含む上部の砂の層に触れて水が漏れ出し、地盤の陥没につながってしまった。博多駅前の幹線道路が、地下鉄に沿って全部落ちても不思議ではなかったのです。危ないのは一部分に限らず、地下鉄に沿ったライン上なんですよ」(同)
七隈線の工事では開業前の'00年6月、福岡市中央区薬院で地盤の掘削工事を行っていたところ、周辺道路が長さ約10メートル、幅5メートル、深さ8メートルにわたり陥没。さらに一昨年の10月27日、今回の現場から約400メートル西の福岡市博多区祇園町で、車道が幅・長さ・深さのいずれも約3メートルにわたり陥没しており、市が再発防止の対策を進めていた矢先の今回の事故だった。
「一般的に地震動は地下深くになれば小さいが、東京の地下は老朽化した地下鉄と下水道管が張り巡らされている。下水道管の本管は幅4〜5メートル。総距離は天文学的なものになります。耐用年数が切れた場合、本管にはシールドを巻いて補強していますが、外力が加わればどうなるか分からない。しかも、銀座線は渋谷の終着駅で、丸ノ内線は御茶ノ水駅で外に出る。つまり揺れを受けやすく、崩落しやすいのです。一方、地下深くを走る大江戸線の崩落は考えにくい。地震が起きた際、地盤と一緒に揺れるので安全性が高いうえ、蛇行構造という1メートルごとに作られたトンネルのため、地震の揺れを吸収しやすく、壊れないのです」(同)
一説には、大江戸線は阪神淡路大震災クラスの震度7の大地震が起きても、崩壊する心配はないという。
やはり危ないのは、最古の地下鉄の沿線上で、すぐ上を幹線道路が走っているような場所だ。
「道路はアスファルトが敷いてあるだけなので怖い。一方、上にビルが建っているところは、基盤に杭が打ってある。地下構造物がある場合と、地下鉄のみが走る場合は別と考えるべきです。だだっ広いターミナル駅の前などは危険ということになります」(同)
一方、“地下街”が発達する大阪はどうだろうか。
「専門家が“日本で最も危険な活断層”と口を揃える上町断層の上は危ない。全長42キロのこの活断層は、大阪府豊中市から大阪市の中心部を走り、岸和田市に至ります。新大阪駅や道頓堀、通天閣は、その上にあるといえる。梅田や難波といった繁華街のすぐ近くを通っているのです」(サイエンスライター)
上町断層は大都市の真下を走る世界でも珍しい活断層だ。幅は約300メートルあり、それがずれると大阪の中心部に落差2メートルの崖が出現するというシミュレーション結果も出ている。
「大阪で危ない地下鉄といえば、1933年開業の大動脈、御堂筋線です。最初にできたので、浅い所を走っているのは当然です」(前出・渡辺氏)
御堂筋線も、上町断層が動いた時に被害が集中する繁華街の地下を走っている。しかも、ビルや住宅が密集しており、直下型地震が起きた際にはもろとも崩落する可能性が十分にある。
「しかも上町断層がずれた場合のシミュレーションでは、淀川に2メートルの滝が出現し、堤防が決壊。淀川の水があっという間に大阪の街に襲いかかるという。梅田などの地下街は濁流に飲み込まれてしまい、鉄道各線や道路も寸断され、完全にマヒすると想定されています」(前出・サイエンスライター)
崩落によって圧死する人に加え、河川の氾濫により水が地下鉄に流れ込むという地獄絵図。もちろん、関西地方には奈良県や和歌山県の下にも、日本最大級の断層から枝分かれする活断層は存在する。しかし、大都市の下に存在する活断層で、近い将来、動きそうな活断層は、上町断層以外に見当たらないという。
「海溝型地震の発生はある程度の予測が可能になりつつありますが、陸側プレート内部での断層運動による活断層型の地震の動きは把握できていない。つまり、直下型地震の場合、その規模は起きてみないと分からない部分が多いということです。そんな地下を、都市部では地下鉄をはじめライフラインが網の目のように走っている。直下型地震により、あの博多駅前にできたクレーターのような穴が、あちこちにできてもおかしくない状況なのです」(同)
巨大地震による二次災害に、地盤の崩落もあることを肝に銘じておかなければならない。