失点が多くなった原因はどこにあるのだろう?
本人は否定しているが、最大の要因が中4日の登板にあるのは明らかだ。
マエケンは5月末まで10試合に先発したが、中4日で登板した4試合は1勝3敗、防御率5.16と、ひどい数字であるのに対し、中5日で登板した4試合は2勝0敗、防御率1.61、中6日以上で登板した2試合は1勝0敗、防御率1.50と好投している。
もう一つの要因は、イニングを経るに従って相手の打者がマエケンの変化球に目が付いてくるようになることだ。1巡目の被打率は1割4分8厘、2巡目は1割7分3厘であるのに対し3巡目は3割5分6厘で、急に打たれ出すことが分かる。打線が3巡目に入るのは5回ないし6回。実際にデータを見ると、マエケンは5回の失点が最も多く、6回の被安打が最も多い。
失点が多くなった三つ目の要因は相手のピッチャーによく打たれていることだ(※本誌表参照)。
5月11日のメッツ戦でマエケンは相手先発投手のシンダーガードに、3回にはド真中に入ったストレートを右中間スタンドに運ばれ失点(ソロ)。5回にはまたしてもシンダーガードにド真中に入ったスライダーをセンター奥のスタンドに運ばれ今度は3失点。同じ投手に一発を2度食うという醜態をさらし4失点した。
5月22日のパドレス戦でも5回、相手の先発投手レイに甘く入ったカーブをセンター前に弾き返されたのを足掛かりに満塁のピンチを招き3失点している。
メジャーの投手の中には普段から打撃練習をしている者が少なくないので、見くびって変化球でかわそうとすると手痛い目に遭う。マエケンは、高い授業料を払ってそのことを知ることになった。
このように5月に早くも壁にブチ当たったマエケン。これを乗り越えて好成績を出すことは可能だろうか?
筆者は十分にできると見ている。
5月の不調は一時的なもので、マエケンは6月になると持ち直す可能性が高い。ロバーツ監督、ハニカット投手コーチのコンビは、どちらもクレバーで知られ、データをしっかり見ている。相手打線が3巡目に入ったあたりで交代させるケースが今後、多くなるだろう。実際、5月28日のメッツ戦では無失点、被安打2に抑える好投を見せていたのに、5回終了時点で交代させている。この時は「初回に打球を右手に当てたので、大事を取った」という説明がロバーツ監督からあったが、それは表向きのもの。相手打線が3巡目に入ったあたりで変えておけば安心というのが本音だろう。
そのほか、マエケンには7月上旬までに登板間隔を一度大きく開ける措置が取られるだろう。これを最初にやったのは5月上旬のことで、中8日で登板したマエケンは制球が冴え、勝ち星こそつかなかったが、メジャー最強のブルージェイズ打線を5回まで1安打に抑える好投を見せた。ロバーツ監督はそのことをしっかり記憶しているはず。7月中旬のオールスター休みまでに、もう一度この措置を取り、疲労のピークが早く来ないようにするだろう。
このような配慮が功を奏し、マエケンは6月以降いったん持ち直す可能性が高い。しかし、いくら配慮されても、8月前後に疲労で腕の振りが鈍くなることは避けられないだろう。メジャー1年目の日本人投手は、春のキャンプでローテーションに入ってやっていけることを証明しないといけないため、キャンプからフル回転しないといけない。そのため夏場にガス欠を起こすケースが多くなるのだ。
野茂英雄、石井一久、松坂大輔、ダルビッシュ有に至るまで、メジャー1年目の日本人投手はほぼ例外なく夏場のガス欠で2、3試合打ち込まれる現象が見られた。石井や松坂は完全に立ち直れないままシーズンを終えたため、防御率が一本調子で悪くなったが、マエケンはそうはならないだろう。疲労の回復が早いことに加え、終盤になると元気が出てくるタイプだからだ。
ナ・リーグ西地区はジャイアンツが5月に21勝8敗と勝ちまくって頭一つ抜け出し、ドジャースが追う展開になっている。ド軍はメジャーNo1投手カーショウが抜群のピッチングを見せているのに、その他の投手が冴えないため勝率5割前後をウロウロする展開になっている。それだけに先発2番手と見なされているマエケンへの期待は大きい。
6月にはおそらく6回先発する機会があると思われるが、4勝を挙げ、かつ防御率を3.00以内にキープできれば、オールスター選出の可能性も出てくる。6月はマエケンのピッチングから目が離せない。
ともなり・なち 今はなきPLAYBOY日本版のスポーツ担当として、日本で活躍する元大リーガーらと交流。アメリカ野球に造詣が深く、現在は大リーグ関連の記事を各媒体に寄稿。日本人大リーガーにも愛読者が多い「メジャーリーグ選手名鑑2016」(廣済堂出版)が発売中