CLOSE
トップ > スポーツ > プロフェッショナル 巧の格言 杉山邦博(元NHKエグゼクティブアナウンサー) 「すべて土俵が中心」相撲実況アナのブレない心意気(1)

プロフェッショナル 巧の格言 杉山邦博(元NHKエグゼクティブアナウンサー) 「すべて土俵が中心」相撲実況アナのブレない心意気(1)

 「私が放送ジャーナリストに魅せられたのは、戦前の双葉山-玉錦の横綱同士の一番と、大学野球の早慶戦の実況でした。それがきっかけで、ジャーナリストを多く輩出している早稲田大学の文学部に進んだのです」

 当時をそう振り返った元NHKアナウンサー杉山邦博(84)。双葉山-玉錦の一番を実況した一人は、後に杉山の上司となる山本照アナウンサーだった。その名調子に魅入られ早大に入ったのだが、最初、門を叩いた放送研究会では「声がアナウンサー向きではない」「小倉訛りがある」と言われ、入会を許されなかったという。
 「私は悔しくて、その後は覚えたラジオドラマのセリフを繰り返すことで訛りをなくし、標準語に近づけました。そして自らアナウンス研究会を立ち上げ幹事となったのです」
 早大のアナウンス研究会は、現在もNHKや民放各局に人材を輩出している。当時の放送研究会を排除された悔しさが、ブレない放送ジャーナリストの原点となったのだ。

 杉山は'53年、NHKに入局。翌年、赴任したのが名古屋だった。当時、名古屋では準本場所が行われており、杉山は新人にもかかわらず新横綱・吉葉山(宮城野部屋)の土俵入りや、幕内力士の一番一番を見事に実況したのだ。新人で相撲実況をこなすのは、素人目に見ても難しいことはわかる。
 「少年時代から相撲が好きだったので、大相撲の知識は一通り身につけていました。でも、当時はラジオが主流でしたから、言葉としての決まり手は知っていても、実物を見たことがない。それでも立合いから勝負がつくまで、専門用語も含め技の解説にも触れながら実況しなければならない。新人アナには確かに至難の技です」

 しかし、それを見事乗り越えたのは、前述した上司のアナウンス部長、山本氏の教えがあってのことだった。杉山は予め、相撲を実際に取りながら実況稽古を受けたのだ。
 「中継を想定して、喋りながらスタジオ内で何度も何度も山本先輩に転がされましたよ(笑)。相撲の決まり手は48手ありますから、それを全部やったわけです」

 相撲を知り尽くしたベテランアナを相手に稽古ができたのだから、これに勝る教えはない。とはいえ、相撲担当アナに必要なのは立ち会いの実況だけではない。力士の数は約700人。その顔と名前が一致しないと話にならないのだ。
 「先輩によく言われたのは、『背中を見て誰だかわからないとプロじゃない』ということでした。だから毎日、各部屋の朝稽古にまだ薄暗い朝の5時頃から行って、5時間くらいは座敷に座っていました。すべてが勉強でしたね」

スポーツ→

 

特集

関連ニュース

ピックアップ

新着ニュース→

もっと見る→

スポーツ→

もっと見る→

注目タグ