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本好きのリビドー

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提供:週刊実話

◎悦楽の1冊
『中世奇人列伝』 今谷明 草思社文庫 980円(本体価格)

★中世の知られざる才人、奇人の生涯

 かつて東洋史学の大家・内藤湖南は「ざっくり言えば日本の歴史はだいたい応仁の乱以後さえ把握しておけば間違いない」旨を語って物議を醸した。

 無論、彼の本意はそれ以前がどうでもいい訳でなく、現在の日本という国家の特徴ないし性格、国柄全体に通ずるものが決定的に形づくられたのが室町より先、といったニュアンスなのであろうが、その割に鎌倉期と併せて“中世”とくくられるこの時代の人気や、中世史を生きた個々の人物の知名度は正直いまひとつ。否、ほとんど手つかずの荒野の状態なのが現状だろう。だが、本書を繙けば荒野が沃野に一変すること請け合いの面白さだ。

 書名に「奇人」とあるが別に過剰に常軌を逸した輩ばかり出てくるのではなく、数奇な運命を辿った人々と心得て読み進めれば、広義門院などその最たる人。皇室が南北両朝に分裂した室町初頭は、敵味方の入り乱れ具合や各勢力の合従連衡ぶりの複雑怪奇さにおいて史上屈指の頃だが、後伏見帝の皇后に非ざる身で光厳・光明と2人の天皇を産んだ彼女はこれでもかと混沌の渦中に叩き込まれる。

 その究極が南朝方の軍勢による北朝皇族の拉致事件で、あくまで大勢としては有利な筈の北朝に天皇・上皇が1人もいない異常事態に際会して彼女が下した決断とは? 「この国に天皇がいないとどういう事態に陥るかということが如実にうかがわれて興味深い」この件は、いわゆる女性宮家創設に因んで粗雑に議論されがちな皇統の未来を考える上でも白眉の章。

 承久の乱後に逃亡と潜伏を続け、執念深く鎌倉幕府転覆を図った後鳥羽院の忠臣、法印尊長の死に様など東映ヤクザ映画のよう。流浪の将軍足利義稙の生涯も、哀れを誘う。
_(居島一平/芸人)

【昇天の1冊】

 平成6年に初めて歌舞伎町を訪れ衝撃を受けた韓国人写真家は、令和に元号が変わるまでこの街でシャッターを押し続けた。膨大な数の写真には、刻々と変化を遂げる平成時代の歌舞伎町の姿が写っている。写真家は言う。無数の魅力に満ちた所だと。『平成新宿 歌舞伎町カメラマン25年の軌跡』(若葉文庫/本体価格2900円)は、そうした歌舞伎町の摩訶不思議な魅力が充満した写真集だ。

 ルーズソックスのJKが写る平成8年頃、ヤマンバギャルが幅をきかせる21年頃と、街で遊ぶ女のコたちの変遷がある。20年頃からにわかに増えたホストたちの享楽も。増えたといえば、ゴールデン街には次第に外国人客が目立ち始める。

 けんか・乱闘シーンや、ホームレスの姿も数多いが、これらの写真を撮影する機会は、逆に次第に減っていく。その契機となった「歌舞伎町浄化作戦」の旗振り役、石原慎太郎元都知事の視察場面や、「暴力団相談ホットライン」のデカデカとした看板もある。

 そして平成も終わりに近付くと、危険な香りは薄れ、どこかアッケラカンとした、陽気な歓楽街に変わる。

 撮影者の権徹氏の同胞が多く集うコリアンタウン・新大久保も、韓流ブームで華やいだ街からヘイトスピーチに晒される場所へと、変化を余儀なくされる。

 見終わって思うのは、新宿周辺は享楽と失望の縮図ではないかということ。これは令和になっても変わらない。新宿、いや平成ニッポンのドキュメンタリーとして、息をのむ1冊だ。
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)

【話題の1冊】著者インタビュー 本橋信宏
全裸監督 _村西とおる伝 太田出版 2,400円(本体価格)

★すべてにおいて過剰な男 映像化も見事に再現

――本橋さんが村西監督と知り合ったきっかけはなんだったのですか?
本橋 ライターの池田草兵というスクープを連発する名物男から紹介されたのが最初でした。当時、ライターで食っているのがバカらしくなった草兵さんが、密かに流通しだした『裏本』の制作をやりだしたのですが、増刷のときに販売ルートに行き詰まってしまい、紹介されたのが“裏本の帝王”、後の村西とおるでした。村西とおるは表の出版社『新英出版』を立ち上げ、写真週刊誌『FOCUS』の二番煎じをやろうとスタッフを集めていたところで、たまたま、私に編集長役が回ってきたのです。

――まさにジェットコースターのような人生を歩んできた村西監督ですが、実際は、どんなタイプの人物なんでしょうか?
本橋 すべてにおいて過剰! 松阪牛をキロ単位で買ってきて、ぶつ切りにしてタレをかけてさらに砂糖を袋ごとぶちまけ、「味の濃さ絶頂ですよ!」と言いながら、スタッフ全員で牛丼を食べるとか(笑)。また、遅れてきたスタッフ1名には「とりあえず上カルビ20人前お願いします!」と、1メニュー20人前単位でごちそうする。これが10メニュー近く続くんです(笑)。
 コペンハーゲンやローマで撮影したときは、リムジンバスを借りて、細い路地に行き止まるまで突っ込み、駅弁ファックしたりしてましたね。人魚の像に全裸の女を抱きつかせたりと、今思い出しても過剰でした。

――村西監督とジャニーズ事務所とは“敵対関係”にあることで知られていますが、どんな事情があったのですか?
本橋 出演者の梶原恭子が昼の休み時間に「私、トシちゃんと寝たことがあるの」というので、それをテーマに『ごめんね、トシちゃん』というAVを制作したんです。それが日本テレビと週刊ポストに取り上げられると、メリー喜多川副社長と娘のジュリー景子氏が強行に抗議してきました。怒った村西とおるは、『ジャニーズ事務所マル秘情報探偵局』を開設しました。また他にも、北公次にジャニー喜多川氏との同棲、セックス関係を『光GENJIへ』という本で告白させ大反響を呼びました。先日はジャニーズ事務所が公正取引委員会から注意を受けましたが、時代も変わったものだと感慨深いですね。

――8月にはなんと本作が俳優の山田孝之主演でNetflix版『全裸監督』が全世界配信されました。感想はいかがでしたか?
本橋 原作を忠実に再現しながら、女と男が自由を求めて生きたあの時代を見事に映像化してます。
_(聞き手/程原ケン)

本橋信宏(もとはし・のぶひろ)
1956年埼玉県所沢市生。早稲田大学政治経済学部卒。私小説的手法による庶民史をライフワークとしている。現在、都内暮らし。半生を振り返り、バブル焼け跡派と自称する。

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