当たり前だが、リップサービスしてくれる選手ばかりではない。別ルートからコッソリ帰る選手も過去にはいた。久保が投げ終えて2時間近く経過。「ひょっとしたら?」の声も出始めていた。久保はDeNAのチームメイト・萬谷康平が投げ終わるまでベンチで待機し、他選手にエールを送り続けていたのだ。
「萬谷もキャッチボールとかをやってもらったし。来年また一緒に、皆で野球ができたら…」
巨人時代は主に救援として活躍。そんな久保の人柄をさらに印象づけるように、球場控室には元同僚の長野久義が見守っていた。
「激励のメールとかももらった。自分の出番の後、(巨人の)坂本(勇人)にメールして、『カトケン(加藤健=前巨人)に打たれちゃった』って教えたら、笑ってました」
同日夜、坂本やDeNAの筒香嘉智らは侍ジャパンのユニホームを着て、国際試合を戦った。このままでは終われないとの思いは、当然強く持っていたはずだ。
「(実戦形式の登板は)久しぶりなんで緊張して、思い切ってやろうと思ったのがよかった。今後に関しては、今はNPB一本で考えています。第二の人生がどうなるか分かりませんが、野球をできるところがあれば…」
今年のプロ野球ペナントレースを振り返ってみると、広島の黒田博樹を始め、DeNA・三浦大輔、千葉ロッテ・サブローなど、自身の現役生活に納得してピリオドを打ったベテランも少なくない。また、トライアウトを受験せず、東北楽天からのオファーを得た細川亨のようなベテランもいる。
今回の65人の受験選手たちには、新垣、久保以外にもドラフト1位、逆指名などでプロ入りした選手も目立った。前ソフトバンク・巽真悟、前阪神・鶴直人、前オリックス・白仁田寛和、元DeNA・北方悠誠などがそうだ。彼らは「再起」の思いを強く抱いていたが、「覚悟」も持っていたようだった。
'05年高校生ドラフト1位の鶴直人がこう言う。
「1位だからということで、今日のために調整してきたのではありません。1位指名選手の緊張はありました。入団して2年は怪我で戦力になれなかったのも申し訳なく思っています。後輩たちに負けたくない一心で頑張ってきました。ドラフトはいい思い出ですが…」
ネット裏の各球団編成担当者は多くを語ろうとしなかった。聖地・甲子園でのアピールも、思い出になってしまうのだろうか。