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USA発 新聞、テレビではわからないMLB「侍メジャーリーガーの逆襲」 30歳でメジャー昇格を果たした苦労人! 元巨人・村田透(インディアンズ)が成し遂げた4つの快挙

 6月28日、ダブルヘッダーとなったオリオールズ対インディアンズの第2試合で耳慣れない日本人投手が先発のマウンドに立った。インディアンズの右腕・村田透である。
 メジャーではダブルヘッダーがあると5人の先発ローテーションを中4日で回すことができなくなるため、1試合限定でマイナーの先発投手を一人引き上げてスポットスターター(ローテの谷間の先発)として起用することが多い。村田も、この1日限定のスポットスターターとしてメジャーに呼ばれたのである。

 昇格が決まったのは前日の夜だったため、当日、村田は飛行機で4時間かけてオハイオ州コロンバス(3Aの所在地)から東海岸のボルティモアに飛び、メジャーきっての強力打線を相手に投げることになった。
 初回は上手くタイミングを外して3人で片づけた。しかし2回に味方の失策から2失点。3回は1番マチャードと2番パームリーを連続三振に切って取り立ち直りかけたが、4回になって投球が浮くようになりソロアーチを2本浴びてKOされてしまった。ほろ苦いデビューとなったため日本のメディアの扱いは小さかったが、筆者は村田透のメジャー昇格は、大きな賞賛を浴びてしかるべきものだと思っている。
 理由は四つある。

 一つ目の理由は、'95年の野茂英雄のメジャー入り以降、20年連続で続いていた日本人大リーガーの誕生が途絶えずに済んだことだ。筆者に限らず大リーグ・ウオッチャーの誰もが阪神・鳥谷敬のメジャーチャレンジ断念で今年は一人も日本人大リーガーの誕生はないと見ていたはずだ。そんな不作の年に、村田という伏兵が現れたことは嬉しい誤算で、これ以上ない朗報となった。

 二つ目の理由は22歳でプロ入り後、苦節9年目で晴れて「一軍」のマウンドに立ったことだ。村田は'07年秋の大学生・社会人ドラフトで巨人から1位指名された逸材だったが、足首の故障に悩まされたこともあり、巨人時代の3年間('08〜'10年)は一度も一軍での登板がなかった。解雇された後、トライアウトでインディアンズのスカウトの目に止まり渡米。マイナーで投げるようになるが、初めは1Aからのスタートだった。これは大相撲でいえば序の口から始めたようなものだ。そこから4年半かけて這い上がり、レベルの高い米国で晴れて「一軍選手」になったのだから、そのネバーギブアップ精神には頭が下がる。

 三つ目の理由は、速球のスピードが遅い欠点(時速137〜142キロ)を打たせて取る技術を磨くことで克服したことだ。村田が2Aと3Aで長いこと足踏みしていたのは遅い速球が甘く入り、一発を食うケースが頻繁にあったからだ。この欠点を克服するため、今季はゴロになりやすいカッター軌道の速球やシンカー軌道の速球を多投するようになり、一発を食うケースが半減。そのため、昨年まで5点台だった防御率が2点台にアップ(6月末現在2.79)。メジャー行きの切符を掴む決め手になった。

 賞賛に値する四つ目の理由は、中南米の選手と同じレベルのハングリーな環境に身を置いて這い上がってきたことだ。
 最近は日本人選手がメジャーに定着できず、マイナー暮らしを強いられるケースが多くなっている。井川慶、西岡剛、中島裕之はその典型だ。彼らはマイナーに落ちても年俸数百万ドルを保証され、通訳も付くため、大都市の高級コンドミニアムから通訳の運転する車で3Aの球場に通う大名暮らしを続け、周りからやっかまれ、浮いた存在になっていた。
 村田の生き方は、そんな評判の悪い日本人マイナーリーガーたちと対極をなすものだ。

 '10年秋に巨人を解雇された後、村田はインディアンズとマイナー契約したが、そのときの契約金はわずか3万ドル(360万円)だった。
 米国1年目('11年)はフルシーズン、マイナーの1Aで投げたため月給は15万円程度。しかも支給されるのは公式戦が開催される5カ月間だけで、年収は100万円に届かなかった。
 2年目は開幕時こそ1Aだったが、すぐに2Aに上がり、終盤には3Aにも昇格した。それでも月給は30万円程度で、支給される期間も6カ月である。この程度の収入では生活できないためマイナーの選手はオフの間、アスレチッククラブのインストラクターや荷物運びのアルバイトをして生活を支える。しかし、村田は小金を稼ぐよりハングリーな環境で自分を磨くことを選択。'12年からオフシーズンになるとベネズエラのウインターリーグに参加して投げた。

 このように村田は日本人らしからぬハングリーな世界に何年もどっぷり浸かりながら這い上がってきた稀有な存在である。たとえ、メジャー在籍が1日で終わったとしても、その価値の大きさは計り知れないものがある。

スポーツジャーナリスト・友成那智
ともなり・なち 今はなきPLAYBOY日本版のスポーツ担当として、日本で活躍する元大リーガーらと交流。アメリカ野球に造詣が深く、現在は各媒体に大リーグ関連の記事を寄稿。'04年から毎年執筆している「完全メジャーリーグ選手名鑑」(廣済堂出版)は日本人大リーガーにも愛読者が多い。

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