「5G」(第5世代)の移動通信システムは、通信速度が現在の「4G」の100倍、容量は1000倍にもなるといわれる。その実用化では中国が米国に先行しそうな形勢にあって、米国のサイバー覇権を経済でも情報面でも揺るがしかねない。「5G」の覇権だけは絶対に握られたくないという米国の確たる意思が、ファーウェイの孟晩舟(モー・バンシュウ)CFOのカナダでの逮捕につながった。
「中国が米国の技術を窃用している『知的財産の侵害』だけなら、しょせんは後追いにすぎないのですが、米国の理工系大学院には中国人留学生が約8万人もいて、博士号を得る者が年に約5000人(日本人は約200人)もいるのです。その大部分は米国で最先端の技術開発に従事したのち帰国し、中国の技術を急速に進化させているわけで、米国は残る得意分野の電子技術でも中国に追い抜かれるのを防ごうとし、特に躍進が著しいファーウェイと中興通訊(ZTE)を目標としているのです。留学生の入国にも制限をかけ始めました」(国際ジャーナリスト)
孟CFOの裁判は2月6日にカナダのバンクーバーで開廷される。カナダのスパイ防止法に照らせば最長30年の懲役刑に処せられるが、中国との外交カードに使いたい場合はアメリカに身柄を引き渡すかもしれない。
「優柔不断で決断力に乏しいカナダのトルドー首相は、司法長官を通じて裁判所が判断するとし、政治介入を避けています。他方、中国はカナダ人3人を中国国内で理由なく拘束し、無言の圧力をカナダ政府にかけていますが、この3人のカナダ人は全員がパンダ・ハガー(親中派)です。一説には“サル芝居”ではないかとする見方もあります」(同)
それにしても孟CFOの人物像はナゾに包まれている。8つのパスポート所持もさることながら、逮捕の口実にされたイランへの不法行為は、ファーウェイとは別会社名義で行われており、またHSBC(世界最大のメガバンク)が絡んでいることも判明しているが、全容は不明だ。
バンクーバーにある3つの大豪邸の名義は夫だ。4人の子供たちは香港、中国・深圳、バンクーバー、マサチューセッツ州とバラバラバに住んでおり、バンクーバーに居る子は、前夫との間にできた長男(16歳)らしいが、孟夫妻とは別の住まいを持つ。
「孟CFOは12月11日に巨額の保釈金を積んで保釈されましたが、誰が支払ったかというのもミステリーの1つです。報道によれば5人の“友人”が220万ドルを用意したといわれます。その内訳ですが、1999年にカナダに移住した中国人夫婦、孟CFOに不動産を斡旋した不動産会社(中国人)、97年に仕事で一緒にモスクワへ行ったという元ファーウェイ社員(中国人)、そして隣に住むヨガのインストラクター(女性)だそうです。夫も520万ドルを用意したらしい。夫君は不動産証券を緊急の担保で差し入れたと報じられていますが、他のメディアはその夫も逮捕を恐れ、海外逃亡を企てているようだという情報も流布されています」(米国在住日本人ジャーナリスト)
今後も米加VS中国の駆け引きが、国際政治の舞台裏で熾烈に続く。